ポケモンXY感想−60話目 (特)

第60話 「目指せカロスクイーン! セレナ、デビューです!!」
 ■ 脚本:冨岡淳広  ■ 作画監督:堤舞  ■ 演出:冨安大貴

 ― セレナの挑戦、そして決意 ―


◆ トライポカロンへの挑戦

 朝。ヒヨクシティのポケモンセンターで、セレナは皆にドレスをお披露目した。もっとも、実際に着用した訳では無く、体に当てた状態でだが、……これ地味に裸に見える。


 ▲ フォッコヤンチャムも、セレナからのプレゼントを装着。


  サトシ 「おぉぉ〜!」
  ユリーカ 「セレナ可愛いぃぃ!」
  シトロン 「とっても素敵ですよセレナ!」

 ユリーカとシトロンは褒めているのに対し、サトシは簡単な感嘆のみに留まる。ある意味、第21話のフォッコ衣装の時のような反応だが、それがサトシらしさといった所か。
 第7話のツナギ姿にも特段反応を示さなかったサトシ。果たしてセレナは、率直にサトシに褒められた時、どんな反応を示すのだろうか。

 早速トライポカロン会場にやって来たセレナたちは、久々にサナと再開する。
 どうやらサナも出場するらしく、晴れて、セレナとサナはライバルになった訳だ。

 喜ぶセレナ。こう、“はじめから嫌みのないライバル”と言うのは、アニポケでは相当珍しい気がする。ここもXY編の新たな試みなのだろう。

 まだ開演前のステージを覗いてみる。沢山の客席には、既に観客がちらほら。グリーンのステージと、そこから伸びるお立ち台(この後、ランウェイと表現される)。
 これからこの舞台に立つと言う緊張は、セレナもサナも同じらしい。しかしセレナは、不安気な表情でなければ、期待を込めた表情でもない。いったい何を思っていたのだろうか。


 一方、会場の裏方に、1台の白い高級車が到着した。

  マネ 「ヤシオ様、到着しました」
  ヤシオ 「ホントに行かなきゃダメなの?」
  マネ  「お願いします。また明日の朝、迎えをつけますので」
  ヤシオ 「はぁ……」

 ヤシオと呼ばれたその少し老いた女性は、車から降りるなり、報道陣に囲まれる。
 審査員としてトライポカロン界に復帰――。ヤシオは、昔トライポカロンに出場もしくは関係者、はたまた元カロスクイーンなのだろうか。現時点では分からないが、何やら重要キャラのようだ。



 そしていよいよ、トライポカロンがスタートする。

 相変わらずよく分からないテンションの審査員は さておき、VIP席らしき場所で観覧するのは、先ほどのヤシオ。

  ヤシオ 「エルみたいな子は出てこないわよ」

 意味深な発言が。これは、エルがトライポカロン界で飛び抜けた実力の持ち主であることが想像できるが、だとしたら、ヤシオはいったい何者なのだろう。
 エルをスカウトしたコーチなのか……エルに道を譲った元クイーンなのか……。やはりまだ分からない。


 ここで、トライポカロン≪ルーキークラス≫のルールが語られた。
 トライポカロンには第1審査と第2審査があり、優勝すると、“プリンセスキー”が贈られる。これを3本集める(3回優勝する)と≪マスタークラス≫への出場権が獲得でき、そこで優勝すれば、カロスクイーンの称号を得ることが出来るのだ。
 第1審査では、ポフレ作りやドレスアップと言ったお題を3人1グループで競い、評価が高かった1名が、第2審査へ進む。第2審査ではポケモンとトレーナーのアピール大会で、今大会では6人の決勝となるらしい。
 なお、評価は観客の投票によって行われる。“ポケリウム”と言う発光ステッキを使うようだが、謎の技術で、その光が演技者に集まり、票を集計するシステムらしい。謎技術さえなければ、紅白歌合戦のような審査方法だ。
 
 ポケモンだけでなくトレーナーの技量、表現力も求められる当たり、ポケモンコンテストより難易度は高そうだ。3回優勝でOKと言うのは、その辺の考慮なのだろうか。


 ▲ 謎の技術の結晶、ポケリウム。


 さて、今回の第1審査は“ポケモンスタイリング”。10分間で、よりポケモンを美しく飾れるかを競う内容だ。
 
  ユリーカ 「オシャレ対決だね」
  サトシ 「ならセレナは心配ないな」

 サトシがそう発するあたり、彼なりにセレナがお洒落だと言うことは分かっているらしい。……いや、“セレナが飾り付けるポケモンが”という意味合いだろうか。

 第1審査はスムーズに進み、その中で、サナが既に突破。着々と近付く自分の番に、セレナは緊張を隠しきれない様子だ。

 握り拳が震えるセレナを優しく励ますサナは、やっぱり良い子、良いライバルだ。

 そしてとうとう、係員から、セレナの名が呼ばれた。



◆ ステージの幕開け、その時セレナは

 幕開ける、セレナのトライポカロン
 同グループ2人と共にステージ上に立ったセレナは、緊張と言うより、どこか不安気な表情を見せる。思わずフォッコを強く抱きしめたのも、そのためか。

 それに気付いたフォッコは、セレナの顔を見つめて笑顔を作る。この子は緊張していないのだろうか。

  セレナ 「(そうだ、一人じゃない……フォッコも一緒)……うん。始めるよ、私たちの夢!」

 そんなフォッコの仕草で、セレナはハッとする。ポケモンと一緒に目指す夢――セレナの夢。その第一歩を、彼女は今、踏み出そうとしている。
 不安を全て取り払い、セレナは万全の想いで、フォッコへの飾りつけに取り掛かった。


  セレナ 「ねぇフォッコ。この日のために私たち、いぃっぱいトレーニングしてきたよね……」



  セレナ 「……サトシも言ってた。今までの旅全部、無駄なことなんて一つも無いって。だから今日は、昨日までの全部をぶつけるのっ!」

 アニメ内での描写はほぼ無かったが、この日まで努力してきたからこそ、今こうして、自信を持って取り組めるセレナ。
 サトシの言葉を覚えていて、そしてそれに支えられて。もっとも、サトシ自身に自覚は無いだろうが、そうサトシに語られたからこそ、セレナは全力で取り組めるのだろう。図らずもサトシとセレナは、自分の夢を追い求めるに当たり、互いに支えられているようだ。


 時間終了。
 飾りつけを終えたセレナとフォッコは、グループ最後、3番目に登場。白とピンクを基調とした飾るを基調に、尻尾に青いビーズを配置。長いリボンが優雅に揺れる、可愛さ満点のドレスアップだ。

  ユリーカ 「わぁぁっ可愛いぃぃ!」
  サトシ 「良いぞーセレナーフォッコー!」


 ▲ これ以上ないほどキラキラするユリーカ。


 サトシ達も、そして控室で見守るサナとヤンチャムも、セレナとフォッコに大絶賛。包まれる歓声に、セレナは手を振って応える。

  セレナ 「フォッコ、なんだか私、すっごく楽しいよっ!」

 緊張と不安を吹き飛ばしたセレナ。評価は上々、自信もあり、夢のトライポカロンのステージに、こうして立っている。その喜びを体いっぱいで表現するセレナは、とても輝かしく見えた。そしてフォッコも目をキラキラさせながら、ランウェイを進んで行く。
 2人の夢は、まさにいま、実現されようと動いている。高ぶる気持ち、挑戦出来る嬉しさ。トライポカロンと言う夢のステージを、2人は全力で楽しんでいたが……。



◆ スポットライトに照らされるなか……



 美しく靡くリボンは、フォッコには長すぎた。

 リボンを踏んで転んでしまったフォッコは、その衝撃で、ドレスアップの一部が散らばってしまう。その場で取り繕って続行すればまだ評価は良かったかもしれないが、初挑戦で、予想だにしなかった事態に、セレナはどうすることも出来なかった。
 ただただスポットライトを浴びながら、フォッコを抱きしめ、その場にしゃがみ込むことしか出来なかった……。

 そんなセレナの姿を、サトシも、シトロンも、ユリーカも、無言で見つめていた。セレナがカロスクイーンになりたいと言う夢、それにかける想いを、彼らはよく知っている。だからこそ、初挑戦での失敗に、言葉が見つからなかったんだと思う。

 そしてもう一人、ヤシオもそんな光景を、黙って見つめていた。




◆ セレナの強さ

 結果はもちろん、と言うべきか、セレナは最下位で一次審査敗退。

 アニポケXY編の放送から1年かけて、トライポカロンに挑戦し、カロスクイーンになると言う夢を見つけたセレナ。そしてその夢を、母親であるサキに認めて貰うため、大きな覚悟を持ってメェークルレースに挑んだセレナ。
 そんな彼女のデビュー戦は、あまりにも残酷な結果に終わってしまったのだ。

 フォッコのドレスアップ時、リボンが床に落ちるシーンが挟まれたことから、どことなく嫌な予感はしていた。しかしこれほどだったとは……。
 大勢の観客に注目される、ランウェイの先端での出来事。しかもそれは、セレナ自身のミス。可愛く魅せるあまり、フォッコの目線でドレスアップできなかった、セレナの責任。そしてその失敗は、サトシ達にも、テレビを通じて恐らくサキにも見られてしまったと言う事実。
 こんな悲劇、普通の女の子だったら泣き出してしまう。

  セレナ 「ごめん、フォッコ。……ヤンチャムも、ごめんね」

 転んでしまったフォッコを撫でながら、労わるように、セレナは言った。
 フォッコにしてみれば、自分の失敗でセレナの挑戦を台無しにしてしまったのだ。そんなこと無いよと言わんばかりに、目を潤ませて応えるフォッコヤンチャムも、気にするなよと元気に応える。

  サナ  「セレナ……」
  セレナ 「飾り過ぎちゃった……。フォッコが歩くことも、ちゃんと考えなくちゃいけなかったのにね……」
  サナ  「でもっ、あのフォッコの魅せ方、凄い上手かったよ!」
  セレナ 「ありがとう、サナ。じゃあ、着替えてくる。……次のステージ、応援してるねっ!」

 それだけ言うと、どこか足早に立ち去るセレナ。
 晴れてライバルとなったサナにも、自分の失敗を見られてしまった。だからこそ、サナと一緒にいるのが気まずかったのだろうか。
 失敗したもののセレナを褒めるサナは本当に良い子であるが、その優しさが、セレナにとっては辛かったのかもしれない。
 けれど、そんなサナを応援できるセレナは、ある意味立派である。



 トライポカロンは、サナの優勝で幕を閉じた。

 VIP席にいたヤシオは、ちゃんと最後まで見たわよとの言葉を残し、会場を後にした。
 さほど興味無さそうなヤシオ。今回の観覧は、いったいどのような意図があったのだろうか。

 一方、客席の最上部で こっそり観覧していたセレナは、一歩先に行かれちゃったなと呟く。けれどその表情はに悲しみの色は無く、純粋に、サナの優勝を凄いと感じていたようだ。フォッコは落ち込んでいるようだが、追いつけば良いさと言わんばかりに、ヤンチャムが笑顔を見せた。



  セレナ 「おめでとうサナ!」
  サナ  「ありがとうセレナ!」
  セレナ 「サナ、待ってて。すぐに追いつくから!」
  サナ  「うん! 一緒にカロスクイーン目指そうねっ」

 解散後、まっさきにサナを祝福するセレナは、本当に良い子。失敗して落ち込んでいる時に他人を褒めると言うのは、この年頃の子にとっては、誰でも出来ることではないだろう。

 そしてセレナは、ユリーカに声をかける。私たちはポケモンセンターでご飯にしましょう、と。
 手を繋いでポケモンセンターに向かうセレナは、普段通りの笑顔を見せていた。ユリーカのお姉ちゃん的立ち位置であるセレナにとって、ユリーカに心配させたくなかったのだろう。自分は大丈夫、落ち込んでないよと、ユリーカに伝える意味合いを込めたこの行動は、セレナの優しさを醸し出している。

  シトロン 「セレナ、大丈夫でしょうか……」
  サトシ 「ん?」

 そんな2人の姿を見ながら、サトシとシトロンが口を開く。

  シトロン 「自分のミスが、原因だと……」
  サトシ 「セレナなら大丈夫さ。セレナは強いよ」
  シトロン 「……そうですね」

 サトシがセレナを“強い”と言ったのは、今まさに、ユリーカに心配かけまいと振る舞うセレナの姿を見たからではないだろうか。
 第三者目線から見ても、自分の失敗で惨敗してしまったと言う現実は、泣きたいほど辛いものだ。それなのにサナやユリーカに普段通りの対応を取るセレナは、まさしくサトシの言うように“強い”。
 これまで一緒に旅してきたサトシとシトロンだからこそ、安心してセレナは大丈夫と言い切れるのだろう。


 ▲ セレナを見守る男2人、この時ばかりはシトロンもイケメンである。
 



  セレナ 「次のチャレンジはサトシね。5個目のバッジ」

 夜、ポケモンセンターで、セレナが言った。

  サトシ 「そっか、次は5個目のバッジか」
  シトロン 「えぇ。約束の時が来ましたね」
  サトシ 「あぁ。シトロンとのジム戦だ!」
  シトロン 「では、ミアレシティに向かいましょう」
  サトシ 「おぉ! 頑張ろうぜピカチュウ!」

 そう言えば、次はシトロンとのジム戦だ。原作でも謎の縛りでミアレジム挑戦は遠回りになってしまったが、理由は別として、アニメでもこれを再現。3度目のミアレ入りを目指すことになる。

 闘志に燃えるサトシとシトロンを、セレナはどこか暗い笑顔で見つめていた。
 失敗したばかりにも関わらずサトシにジム戦の話題を出す当たり、本当にセレナはサトシのことを一番に考えているのだろう。その健気さは可愛らしいが、裏にトライポカロンの失敗を抱えているであろうセレナの表情は、どこか可哀想だった。



 その頃、ヒヨクシティの割と良さそうなホテルで電話しているのはヤシオ。

  ヤシオ 「……えぇ、……えぇ。やっぱり居なかったわ。……朝6時ね。分かったわ」

 仕事の連絡だろうが、“居なかった”とは……。もしやスカウトか? いや、審査員としての復帰であれば、スカウトとはまた別な気もするが……。
 電話を終えて静かに満月を見つめるヤシオは、いったい何者なのだろうか。


 ▲ アニポケ世界にも登場するようになったスマホ。シリーズ通じて結局ガラケーは見ていない。



◆ 涙、決意の朝

 翌朝。
 フォッコヤンチャムと共に、港へ下りてきたセレナ。まだ日が昇る前の静かな時。


 悲しそうに無言で海を眺めるセレナを、2匹は心配そうに見つめている。
 吹き抜ける風がセレナの長い髪を揺らすなか、彼女は昨日のステージを思いだしていた。

 初挑戦。可愛く魅せるあまり、フォッコのことを考えないドレスアップ――自分のミスで失敗してしまった、苦く辛いトライポカロン

 そしてとうとう、セレナは涙を流してしまった。
 駆け寄るフォッコヤンチャムだが、セレナは声を上げて泣きじゃくる。それは、アニポケとしては珍しい“号泣”。可愛い顔が台無しになるくらい、セレナは涙を流し続ける。

 心配は無いかと思ったが、セレナは、溢れ来るものを抑えきれなかったのだろう。ユリーカに、そしてサトシたちに心配かけまいと普段通りに振る舞っていたのも、実は相当無理をしていたのかもしれない。
 そんなセレナの配慮がまた、健気で涙を誘われる。旅仲間の前では決して泣かないことも、セレナの“強さ”。しかし、自分のポケモンの前では涙を見せる“弱さ”が、何とも女の子らしい。
 そして何より、声優さんの表現力が ずば抜けており、涙する感動を盛り上げている。とてもリアルな女の子の号泣……それだけで、牧口さんがセレナの声優で良かったとさえ思えてしまう。

 泣かないで、泣いちゃダメだと訴えるフォッコヤンチャム
 ヤンチャムは、ここではじめて涙を流した。セレナの失敗も割かし前向きで接していたが、ご主人の泣きじゃくる姿を見て、思わず涙を貰ってしまったのだろう。
 自分を心配して飛びついて来た2匹を抱きしめ、セレナはしばし涙した。失敗の辛さ、悔しさでは無い、2匹の優しさに対して。



 そこへ、車に乗ったヤシオが偶然通りかかり、信号待ちで停車。
 何気なく目をやった港では、しゃがみ込んだセレナがフォッコヤンチャムを抱きしめる姿が目に入る。
 それはまさしく……昨日のステージで失敗したセレナだと、ヤシオはすぐに分かったようだ。

 ステージ上で失敗してしゃがみ込む姿と、自分を心配して泣いてくれる2匹を抱きしめてしゃがみ込む姿。格好は同じでも、意味合いは全く違う。ヤシオの気付きを通じて、この対比を取り入れたのには好印象だ。



  セレナ 「ごめんね……私のせいで……」

 優しく語りかけるセレナは、もう涙していない。とても清々しい表情だ。

  セレナ 「でもねっ、こんな気持ち……初めてかも。私、チャレンジャーなんだよ。今日やっと、夢のスタートラインに立てたの」

 それはきっと、セレナの本当の気持ち。
 旅に出るまで、セレナは面倒くさがりで、無理なことはすぐに投げ出し、料理もしない、ある意味リアルな女の子だった。
 それが、サトシ達と旅し、ポケモンと触れ合い、トライポカロンに挑戦し、そして敗北を知る。自分のミスで失敗してしまった悔しさは、“挑戦しなければ分からない”気持ちなのだろう。自分のことをチャレンジャーと言ったのは、そういった気持ちからなのかもしれない。

 そして、夢のスタートラインに立てたのは“今日”。トライポカロンに挑戦した昨日では無く“今日”なのだ。
 それが意味することは……大きな決意。この時点で、もうこの後に取る行動を決意していたのだと思われる。

 そんな彼女の決意が表れた、このシーン。

 笑みを見せながら2匹を抱く表情からの……、決意の表情。この演出は非常に上手い。

 一旦2匹を下ろし、バッグをあさるセレナ。何をするかと思いきや、取り出したのはハサミ。

 ハサミを持って、港の先端へと駆けるセレナ。追いかけるフォッコヤンチャム
 だんだん太陽が昇ってくる。輝く海。そんな美しい時の中、セレナは髪をまとめ、そこにハサミを持って行く。


 ハサミを入れる一瞬の間に、セレナの脳裏に、これまでの旅の思い出が過った。


 旅に出て、フォッコをパートナーにし、サトシ達と出会い、サトシの鈍感さにヤキモキしながらも、夢を目指す彼を羨ましく思い、自分の夢を探し、ヤンチャムをゲットし、夢を見つけ、母親に認めて貰い、その第一歩を踏み出した昨日のトライポカロンで、粗末な失敗をしてしまう――。



 これまでの自分とは違う……チャレンジャーとなった自分を外観にも見出すため、セレナはハサミを入れた。
 女の子にとって、髪は大事なものだと聞く。しかも、綺麗なブロンズの長い髪だ。切ってしまえば、当分元には戻らない。
 それでも躊躇い無くハサミを入れたことから、セレナの決意――、変わろうとする決意が本物であることが見て取れる。

 失敗で多くのことを学び、変わる決意をしたセレナ。
 だんだんと朝日が昇っていくなか、綺麗な髪が名残惜しそうに、風に浚われて行く。
 はじめは こまごました部分、最後にバッサリ切り落とされたのは、自慢のロング部分を最後に切ったからだろう。もう戻ることの無い髪は、朝日に溶け込み、静かに消えて行った。


 このセレナの決意、言動には、衝撃を受けた。号泣するシーンでは思わず涙を誘われたし、髪を切る決意では、アニメでは久々に感動を覚えた。
 それを手助けしたのが、声優さんの力、作画の力、そして、シーンにベストマッチのBGM。更には、実際にセレナが髪を切るシーンや表情、フォッコヤンチャムの反応を見せず、カットする効果音さえも入れないで、ただただ海をバックに髪が消えていくと言う演出。
 これは映画でも通用するレベルだ。ここまで高レベルなシーンはXY編始まって以来だし、スタッフがどれだけ今回に力を入れたのか見て取れる。
 とにかく、セレナへの印象が良い意味でガラリと変わった、最高のシーンだった。


  マネ  「ヤシオ様……なにか見つけたのですか?」
  ヤシオ 「ふふっ……内緒よ」

 一連を眺めていたと思われるヤシオ。
 トライポカロン観覧では退屈そうだったものの、セレナの決意を目の当たりにし、優しく微笑む。ヤシオの正体が何なのかは未だ分からないが、少なくとも、彼女の目にセレナが留まったことは、明らかのようだ。



◆ 心機一転、ハッピーエンド

 出発の時を迎えたが、セレナがまだ来ない。
 オレ探してくるよとサトシが動こうとしたその時、見慣れる少女が現れた。

  セレナ 「じゃじゃーん! お待たせっ! どぉ?」
     「やんちゃーんむ!」
     「ふぉっこー!」


  サトシ 「えっ……セレナ!?」
  シトロン 「どうしたんですかそれぇ!?」
  ユリーカ 「髪切っちゃったのぉ!? ユリーカ長い髪好きだったのに勿体なぁい!」
  セレナ 「気分転換! 短いのも良いでしょ?」

 その少女は間違いなくセレナだった。服装をガラリと変え、髪はショートカット(ボブ風)にし、よりお洒落に、そして個人的感覚であるが、より清楚になったように見える。今までのロングヘアーも捨てがたいが、これはこれで、とても似合っている。


  サトシ 「似合ってるよセレナ!」
  セレナ 「ありがとうっ」

 ユリーカを なだめて言ったサトシだが、この発言には驚いた。
 冒頭、セレナのドレスに対して深い感想を抱かなかったサトシが、このセレナのイメチェンを、素直に褒めたのだ。話の流れ的に、服装よりも髪型を褒めたと思われるが、サトシの口からそんな言葉が出てきたこと事態、レアケースである。
 ツナギやフォッコ衣装では無反応だったサトシだが、セレナの髪型には素直に褒める……鈍感と見せかけて、しっかりセレナのことを見ているサトシは相当なイケメンだ。

  サトシ 「……おっ、そのリボン」


  セレナ 「そう……サトシからのプレゼント」


  サトシ 「付けてくれたんだ。サンキュー!」


  セレナ 「ふふっ♪」


 この嬉しそうなセレナの表情!
 サトシから貰ったプレゼントを服装に取り込み、それをサトシに気付いて貰えたことが、セレナにとって よほど嬉しかったのだろう。

 セレナが先頭に立ち、ミアレシティに向かって走り出す。
 その仕草、表情からは、トライポカロンに失敗した悲しみなんて、微塵も感じない。
 髪を切り、服装を変えて心機一転したセレナは、フォッコヤンチャムとともに、元気よく駆けて行った。


 こうしたことも、セレナの“強さ”なのだろう。イメチェンした理由を「気分転換」だけに留め、本当の理由を語らないのも、サトシ達に変に心配させないための配慮だとすれば、セレナは本当に強い。

 そんなセレナと、フォッコヤンチャムの2日間は、ハッピーエンドで幕を閉じた。
 確かに悲しみもあったが、イメチェン姿を「じゃじゃーん」と言わんばかりに笑顔で紹介するフォッコヤンチャムは、これを心から受け入れたのだろう。
 そして、ラストにサトシから似合っていると言われ、リボンに気付いて貰えたセレナは、頬を染めて喜んでいた。これをハッピーエンドと言わずして何と言えというのだろう。

 サトセレで終わらせた脚本には、非常に好感が持てる。
 それによって、セレナの気持ちから悲しみが消えていることが伝わって来たのだから。

 悲しみより喜び。

 セレナもイメチェンは、失敗の区切りとしてではなく、チャレンジャーになった――夢へのスタートを切った証だと、これで確証が持てた。

 セレナの悲しみと、強さと、大きな決意。
 彼女の心情を丁寧に描写した、トライポカロンデビュー回。結果は失敗に終わったが、セレナを大きく成長させる、とてもドラマチックな、最高に素晴らしいストーリーだった。