ポケモンXYZ感想−112・113話目 【 更新済み 】

 第112話(Z-19) 「マスタークラス開幕! 火花散る乙女の激闘!!」
 第113話(Z-20) 「エルVSセレナ! 開け未来への扉!!」


 グロリオシティ――。
 そこは、トライポカロン・マスタークラスが開催される街。

 その会場となるのが、街を見下ろす高台に築かれた、豪華絢爛な城。

 門構えすら重厚なその城の前で、セレナの心は高ぶる。
 サトシたちとの旅の中で見つけた、彼女の夢、カロスクイーン。その最後の挑戦が、いま、始まろうとしていたのだから。


  サナ  「夢の舞台に、遂に立てるのね!」
  ミルフィ 「カロスクイーンが決まる場所……」

 彼女たちの発言から、この城は、ポケモンリーグ的な存在、トライポカロンの最高峰な場所と言った所か。
 高校野球の甲子園、ラグビーの花園のような、“この場所”すら憧れの対象に成り得るのだろう。

 集結するセレナのライバルたち。
 特にミルフィは いつの間に鍵を集めたんだと言いたいところだが、レギュラーメンバー以外の活躍に時間を割かない傾向のXYZ編において、それは野暮なツッコミだ。


  ミルフィ 「サトシぃ、もちろん私を応援してくれるわよね?」

 早速ミルフィなにしとんねん。

 しかし、サトシの返答は……。

  サトシ  「あぁ! 全力でみんなを応援するぜ!」

 ……と、いかにもサトシらしい答えなのであった。
 そんな返答に面白味を感じなかったのか、そこで食い下がらず、ミルフィは更に突っ込む。

  ミルフィ 「私とセレナが対戦で当たっても?」
  セレナ  「ちょっ……」


  ミルフィ 「どぉ?」

 おいコラ胸を強調するな。
 ミルフィ、ダンスパーティ回に続き、サトシを誘惑にかかる。

 ……いや、表情的に、遊んでいるのは明白だが。

  サトシ  「そしたらやっぱ、セレナを全力で応援するぜ」

 ……おっと、意外にもサトシがセレナの応援を明言。
 通例通りなら、“どっちも頑張れ”的な発言で(無意識のうちに)お茶を濁すのだろうと予測したのだが。

  ミルフィ 「ふ〜ん。ちょっとは進展したの?」
  セレナ  「もぉ! 関係ないでしょっ!」

 ミルフィ、満面の笑み。これ絶対に楽しんでますわ。

  サトシ  「なんだ?」
  ピカ  「ぴぃか?」
  ネネ  「なぁんか複雑そうね」
  ユリーカ 「ま〜ね」

 サトシ、ピカチュウ、シトロンと言い、何故レギュラー男陣は ここまで鈍感なのか。
 そして、セレナの好意がネネにもバレ、相変わらずユリーカは気付いていると再確認できたシーンであった。



 その日の夕方、セレナは母親のサキに連絡を取っていた。

 遂に挑戦するマスタークラス。その緊張、不安……。しばらく会わない自分の母親に、そんな想いを打ち明けるセレナ。
 対するサキも、自分はサイホーンレース直前は緊張する、そんな時は“当たって砕けろ!”と励ます。それは、サキとセレナの、言わば成功の呪文のようなものだ。

  セレナ 「ねぇ、ママ。私、最初はサイホーンレーサーの練習が嫌で出て行ったけど……、旅に出て、本当に良かった! 仲間に会えて、私を支えてくれるポケモンたちにも会えた!」
  サキ  「セレナ……」

 そうしてセレナは、いまの彼女自信の、素直な気持ちを、母親に伝えたのだろう。
 “サイホーンレーサーの練習が嫌で飛び出した”と言うのは、確かアニポケ内で、セレナは初めて、サキに告げた。
 そうした負の気持ちがあってもなお、この旅は、セレナにとって有意義なものであったと分かる。
 これまでの自分の人生を一変させる出会い、出来事。そして、大きな夢――。セレナは今、その夢を掴む、最後の試練に挑もうとしているのだ。

  セレナ 「明日に全部ぶつけてみる! 当たって砕けろよねっ!」
  サキ  「えぇ、頑張って!」
  セレナ 「うんっ!」

 サキとの電話は、そんな最後の試練を前にして、彼女の心を落ち着かせるものだったに違いない。
 セレナも親元を離れて旅する、年頃の女の子だが、やはりまだまだ、親の助言とは大きいようだ。

 夜が明ければ、いよいよ夢の現実に近付く、マスタークラスの開幕だ。



 ― * ― ― ― * ― ― ― * ― ― ― * ― ― ― * ― ― ― * ― 



 そうして迎えた、トライポカロン・マスタークラス。

 控室では、ルーキークラスを勝ち上がって来た実力者たちが、最終調整を行っている。
 勿論セレナもその一人。いつもの衣装(贅沢言えば特別衣装が欲しかった)に身を包み、準備は万端。
 そしてセレナは徐に、テールナーの尻尾の枝を抜き取った。本当に ただ刺さってるだけだったのか……。

  セレナ 「泣いても笑っても、これが最後。私たちの全てをぶつけるよ!」

 枝に想いを託すのは、折れた小枝回以来。新たにニンフィアが加わって、彼女たちの決意は、より強固なものとなったはずだ。


 一方、会場の高いところ、所謂VIP席には、ヤシオの姿が。
 パフォーマーのプロデュースを行っていることが判明した彼女は、果たして今回、どのような存在としてストーリーに絡んでくるのだろうか。



 観客席は満員御礼、サトシたちもその観客の多さに驚くことになる。
 娘の晴れ舞台を見ようと、客席にはサキの姿も。やはり普段とは違う、きちんとした格好での観戦だ。



 花火とともに火蓋が切られた、トライポカロン・マスタークラス。相変わらずよく分からないテンションのピエールはさておき、この舞台に立つ選ばれしパフォーマーたちの登場だ。
 部隊に せり上がってきた扉の中に、彼女たちはスタンバイ。その扉を開けるのは、彼女たち自身。

  ピエール 「さぁ、今までの激闘で勝ち得たプリンセスキーを、自らの手で、鍵穴に挿してください。皆さんの未来への扉が開きます!」


 扉の前で、セレナは戦いに意気込む。そして、鍵を挿す。

 ―― 自分を探して、夢のスタートに立った、1本目のキー。

 ―― そして、夢を現実に近付けた、2本目のキー。

 ―― 失敗もあったけど、ポケモンたちと乗り越えた、3本目のキー。

 ―― そしてここで、絶対カロスクイーンになるんだ……!



 決意を新たにしたセレナには、支えてくれる存在、見守ってくれている存在が、沢山いた。

 客席で一体となる、サトシ、シトロン、ユリーカ、そしてサキ。


 このカットではアイドルオタクにしか見えない、トロバとティエルノ。


 久々の登場、ミスターマーベラスと、助手のソフィー、コゼット。


 もっと久々の登場、と言うより再登場が驚きの、コルニ、ルカリオ、コンちゃん。


 さらにさらに久々の登場、と言うより再び見ることは無いと思っていたビオラと(第20話以来、約2年ぶり)、胸に違和感満載のパンジー


 不意打ちレベルの驚きとなった、ヌメルゴンたち湿地帯メンバー。どうやらフラージェスたちとは変わらず仲良くやっているらしい。


 何してんねんと突っ込みたくなる、セレナの実家のサイホーンヤヤコマ


 これほどまでに多くの存在に、セレナは支えられているのだ。
 こうした演出が出来るのも、長期アニメのポケモンならでは。ついつい気持ちが高ぶってしまう。


 パフォーマーたちが揃い踏みしたところで、ピエールは、スペシャルゲストを紹介した。
 
  ピエール 「元カロスクイーンであり、数々のパフォーマーを世に送り出した、伝説のプロデューサー、ヤシオさんです。特別に、審査員として参加して頂きます」

 ここで初めて、ヤシオが元カロスクイーンだったことが明かされた。
 そして、“伝説の”プロデューサーであることも、明言されたのは今回が初めて。

 ヤシオと言えば、ヒヨク大会の時にトライポカロン界に復帰したとの描写がある。
 また、エルがヤシオのことを“先生”と呼んでいること、及びヒヨク大会時のヤシオの発言から、エルはヤシオのプロデュースを受けてパフォーマーデビュー、カロスクイーンに上り詰めたことは明らか。
 恐らくエルが、“当時のヤシオ”が最後にプロデュースした生徒であり、外見からエルの年齢を18歳と推測すると、ヤシオがポカロン界から離れていた期間というのは、案外短かったのかもしれない。

 ヤシオの素性が明かされた今、当然セレナは困惑する。
 何せ、そんな伝説の存在に「エルのは勝てない」と言い放たれてしまっており、その答えを、彼女は まだ見つけていない。ぶっつけ本番でマスタークラスに挑戦すると言うのに、審査員にヤシオと言うのは分が悪すぎる。
 しかしながら、セレナはそれに焦る素振りは見せず、逆に「ヤシオさんを見返してやろう」という気概すら感じる。それほどセレナが、このマスタークラスで全力を出し切ろうと思っている表れだ。


 ヤシオの淡々とした挨拶もそこそこに、次に登場したのは、現カロスクイーン、エルだ。

 会場内から沸き立つ声援。
 カロスクイーンと言う立場は、それほどまで大きな存在、注目の的、憧れの対象なのだろう。
 サトシが「セレナは こんな人に勝つために一生懸命やってきたんだよな。すげーよな!」と言ったのにも納得だ。

 エルはスピーチの合間、一瞬、チラッとセレナに微笑みかける。
 それは、エルがセレナに期待していることの表れだが、このマスタークラスのステージ上でその行動に出たことに、大きな意味があると感じる。
 テレビは勿論のこと、観客も大勢居るのだから、下手をすれば、特定のチャレンジャーを贔屓していると見られ兼ねない。
 そんなリスクを負ってまでセレナを期待するエル。その微笑みの裏には、「絶対に決勝まで勝ち進んでね」と言う、彼女のメッセージが隠されていたのだろうか。



 さて、エルのスピーチが終わったところで、ピエールから、大会ルールが説明された。

 マスタークラスにはテーマパフォーマンスは無く、全てフリーパフォーマンスでの勝負となる。
 その理由は、“テーマパフォーマンスはポケモンとの相性や絆の深さを見る為のもので、マスタークラスに勝ち進んだ者にその必要はない”とシトロンが考察していたが、恐らくネタ切れも理由の一つだと思う。
 一方で、3人1組の審査と言うのはルーキークラスと変わらず、トーナメント方式で勝ち進んだ1人が、カロスクイーンの称号を賭け、エルと対戦できるとのこと。

 マスタークラスに勝ち進んだパフォーマーは、合計27名。おおよそ見覚えのあるモブたちもプリンセスキーを3つ集めていたらしいが、アメリアの姿は無かった。
 27名×鍵3本=81。トライポカロンは、各地で少なくとも81回は開かれていたようだ。1年周期とすると、おおよそ4日に1回のペースである。あれだけ派手な会場を各地に用意している手前、それくらい盛り上がらないとマズいだろうな……。

 この27人が、3人1組の9チームに分かれ、まずは各々がフリーパフォーマンス。そしてその後、組内の3人が同時にパフォーマンスし、一番良かったパフォーマーを、例の投票システムで決定するとのこと。
 なお、投票はテレビの前の皆さんも、リモコンの「d」ボタンを押して……とは違うかもしれないが、とにかくテレビ視聴者もライブ投票が可能で、会場内の結果と合算した票数で、審査が行われる。言ってしまえば紅白システムである。


 そんな特殊ルールでのトップバッターは、ムサヴィ、ネネ、モブの組。
 普段と違うステージにも関わらずネネとモブは善戦したが、ムサヴィの注目をかっさらうスタイルのパフォーマンスに一歩及ばず、2回戦に駒を進めたのはムサヴィに決まった。

 モブを数組はさみ、続く注目のセレナの組。そこではなんと、いきなりミルフィとの対戦となってしまった。
 セレナはテールナーの衣装を再確認。1回戦と2回戦はポケモン1体でのパフォーマンスとなるため、どうやら初戦はテールナーで挑戦するらしい。ライバル・ミルフィに対し、万全で臨みたいといったところか。

  セレナ  「テールナー、頼むわよ。何たって、1回戦の相手は……」
  ミルフィ 「いきなり嫌なのと当たったわ」

 セレナもミルフィも、互いを強敵と認めている。

  ミルフィ 「セレナ。どっちが勝ち残っても、恨みっこなしよ」
  セレナ  「もちろん!」

 特にミルフィは、もう何度も言っていることだが、セレナを揶揄ってる割には実力を認めている、本当に良い子である。
 ポフレコンテストに始まり、最初は喧嘩していたが、今やポカロンのライバル同士。フウジョ大会、ダンスパーティと、ミルフィはセレナに連敗中だし、今回も勝てないのだが、こうして正々堂々戦う姿勢は、見ていて気持ちの良いものがある。

 ステージに立ったセレナとミルフィは、互いに顔を見合わせた。
 実力を出し切る、全力で挑むことを、この一瞬で再確認したであろうセレナとミルフィ。
 その大舞台がスタートした。


 最初はミルフィのパフォーマンス。
 ペロリームを相方とした演技は、“わたほうし”を応用させたもの。まるで雲の上で舞うかのように踊るミルフィとペロリームは、見ているだけで、こちらも楽しくなってくる。


  ユリーカ 「ミルフィとペロリーム、ステップ可愛い!」
  サトシ  「あぁ。ペロリームの動きも、更に良くなってる」

 サトシさんは相変わらずポケモンしか見ていないようだが、女の子らしい可愛さと、ペロリームの特徴を活かした、よく考えられたパフォーマンスだった。
 って言うか際どさも含め、作画の力の入れようが明らかに違った。


 続くセレナのパフォーマンス。
 永年のパートナー、テールナーと織り成す演技は、誓いの枝を2人で操る、炎のパフォーマンス。パッと湧き上がる炎を優雅なダンスと共にダイナミックに魅せるステージに、観客の掴みは上場だ。
 って言うかミルフィより演技時間が短かったんですがそれは……。


 審査は大詰め、3人でのアピールタイム。
 ミルフィ、セレナ、モブは、各々持ち前のワザを最大限に活かすアピールを放つ。


 ここで、ポケモンたちがワザを出す際の、パフォーマーの動き……表現力も重要になると見た。ミルフィもセレナも申し分ない動きと可愛さだが、その辺はダンスが得意なセレナの方に、分があったと思われる。

 割と一瞬で終わってしまったアピールタイムだが、初のマスタークラスの舞台を納得の形で演じ切れたセレナは、笑顔で客席に手を振った。

 そんな娘の姿を、しみじみと見つめるサキ。
 きっと、彼女のこんな生き生きとした姿を見るのは、久しぶりだったのではないだろうか。
 サイホーンレーサーより、旅で見つけた自分の夢――、カロスクイーンを目指す娘の姿に、心を打たれたようだった。


 そうして注目の結果発表。
 ……まぁ事前情報からセレナが勝利することは分かり切っていたが、サトシたちに加え、コルニたち、マーベラスたち、ヌメルゴンたちにも支えられて掴んだセレナの勝利は、やはり喜ばしい。
 顔を赤らめて喜ぶ彼女の表情は微笑ましいし、夢を見つけるまで、そして大失敗を経験したことを知る我々からすれば、感慨深いものさえある。

 とにかく初戦突破おめでとう、セレナ!



 控室に戻ると、待機していたヤンチャムニンフィアも、主の勝利を祝福した。


 たまらなくニンフィアが可愛い。


 そしてもう1人……。

  サナ  「セレナぁ! おめでとー!」
  セレナ 「わはっ……うん、ありがとう!」

 ……この子たち可愛いぞ。
 艶のある表情を用いるこのタイプの作画、アニポケでは珍しい気がする。


 最終組となるサナを激励して送り出すセレナ。
 思えばセレナがカロスクイーンを目指すキッカケは、サナの言葉だった。そう言った意味では、サナこそセレナの真のライバル。
 ライバルと言う存在自体と無縁だったセレナにとって、ゆくゆく戦う相手になるが、サナの勝利は、セレナの願いでもあったようだ。


 ……そして、勝者が居れば、敗者も居る。

 希望に満ち溢れるセレナとサナの遣り取りを、隠れるように聞くミルフィ。

 勝負に負けた――、全力で挑んだセレナとの勝負に、自分は負けた――。
 実力を認め合う相手と正々堂々戦えたことは大きな経験となったはずだが、それでもこの大舞台での負けは、ミルフィにとって、悔しさも大きかったようで……。

 隠れて涙するミルフィの姿には、正直、グッと来た。
 普段セレナを煽り揶揄い、涙とは無縁と思われるミルフィだからこそ、悔し涙するこのギャップに心打たれた方は、多いのではないだろうか?

 そしてミルフィは、大人だった。涙を拭うと、堂々と、セレナの前に現れる。

  ミルフィ 「おめでとう、セレナ」
  セレナ  「ミルフィ……」
  ミルフィ 「私の分まで頑張ってよねっ」

 ライバルの勝利を、笑顔で祝福するミルフィ。
 全力を出し切って負けた、清々しさすら感じる、眩しい笑顔。しかし……。



  ミルフィ 「……絶対カロスクイーンになりなさいよっ!」

 
 堪えきれず、とうとうミルフィは涙した。本気で挑んだマスタークラス、セレナに負けた悔しさは、想像以上だったようだ。
 それでもきちんとセレナを応援し、祝福するミルフィは、やはり良い子。本当に良い子。サトシとの仲を揶揄う ふざけた面もあるが、こうしたところで、彼女の本性、優しさが見て取れる。ミルフィ、本当に良いキャラしてます。


 同じく初戦敗退したネネにもエールを貰い、決勝へ再度意気込むセレナ。

 ライバルたちの想いを一心に背負い、セレナは次のステージへと進む。
 2回戦はヤンチャムをパートナーにパフォーマンスを魅せ、勝利。まさかのダイジェストだったけど。



 そうして3回戦、準決勝に勝ち進んだ3人のパフォーマーは、このメンバーだ。


 ……うん。

 この組でセレナが勝つことも分かっているので深く言うつもりはないが、本当の本当に、まさかのダイジェストである。サナに至っては演技を見ていない。


 同じ準決勝のステージに立つセレナとサナ。感極まったのだろう、サナが口を開く。

  サナ  「全力よ、セレナ」
  セレナ 「もちろんっ。……ありがとう、サナ」
  サナ  「えっ?」

  セレナ 「サナに誘って貰わなかったら、私……」
  サナ  「……ふふっ。まだ終わってないよ、セレナ」
  セレナ 「うん。お互い、悔いの残らないように!」


 あのサマーキャンプの夜。
 ポケビジョンからトライポカロンのことを知り、一緒に挑戦しようと誓ったセレナとサナ。その時の約束が、72話分の時を経て、実現することになったのだ。
 一緒に夢を追い、互いに切磋琢磨する、本当のライバル。これまでとは違い、全く嫌味の無い、純粋なライバル……。

 しかし、泣いても笑っても、エルに挑戦できるのは1人だけ。カロスクイーンへの挑戦権を得るのは、セレナかサナ、どちらか片方のみ(セレナ)。

 そんな狭き門を争う、華やかであるも気の抜けない真剣勝負が、いま、始まった。


 準決勝は、ポケモン2体によるパフォーマンス。1回戦、2回戦より、魅せ方の幅が広がる訳で、より高度な演技が求められることにもなる。

 最初はムサヴィ。BGMはロケット団団歌のアレンジ。
 パンプジンニャースと共に織り成す、サーカスのような動き、“やどりぎのタネ”による大胆な魅せ方は、観客から高評価だ。
 笛になってなかったコジロウには思わず気が緩んだ。


 次はサナ。BGMは(多分)第63話でしか流れていない、あの格好良いやつ。原曲なんだろう?
 フシギソウフラベベと共に織り成す、活発さが伝わってくる動き、“つるのムチ”によるアクロバティックな魅せ方は、観客から高評価だ。
 あとサナの衣装がスカートでは無かったことが判明した訳だが、作画さんが鉄壁に限界を感じて諦めたように思えてならない。


 最後はセレナ。BGMは普通の奴だった!
 ニンフィアヤンチャムと共に織り成す、楽しさをいっぱいに表現した動き、“ようせいのかぜ”によるダイナミックな魅せ方は、観客から高評価だ。

 ……しかしここで、アクシデントが起こる。
 そのダイナミックさが仇となり、宙に舞っていたセレナは、着地に失敗してしまったのだ。


 そもそも左手で着地と言う時点で相当な無茶。
 そのまま倒れそうになるが、咄嗟にニンフィアが動いた。

 あくまで演技の一部と見せかけて、セレナは別の形で着地に成功。観客もそれに違和感は持たず、大きな歓声のもと、フィニッシュとなった。

  セレナ  「ニンフィア、ありがとう」
  ニンフィア 「ふぃぁ……」


 そんな表情も可愛い。


 一方、そのフィニッシュに違和感を覚えた人物が、2人いた。
 エルとヤシオである。プロから見れば、ラストのアドリブ感は否めないのか……。



 そうして結果発表の場。
 この勝者こそ、憧れのエルへの挑戦権を獲得する、未来のカロスクイーン。セレナにとって、絶対に通過しなければならない、最後の関門だ。

 サトシたちが、サキが、そしてテレビを通じて応援していた面子が見守る中、投票が開始される。


 緊張の瞬間。照明が落とされた会場で、勝利の女神が微笑むのは……。


  ピエール 「……セレナ! 君だぁ!」

  セレナ  「やった……ホントにっ……私がっ……!」

 勝者はセレナだった!
 タイトルからセレナの勝利は確定していたが、嬉しさのあまり、セレナは涙する。共に舞った、ニンフィアヤンチャムも。


  サトシ  「やったぞセレナぁ!」
  ユリーカ 「ハッピーハッピーユリーカ!」
  シトロン 「夢を見てるみたいですぅ!」

 ユリーカのその言葉、第6話以来2年4か月ぶりに聞いた気がする……。


  サキ  「よくやったわ……さすが私の娘っ! ねぇ! あの子わたしの自慢の娘なの!」

 お母さんやめたげて! 気持ちは分かるけど田舎者っぽく見えるからやめて!


 一方、喜ぶ者が居れば、やはり、悲しむ者も居る。

  サナ  「セレナおめでとう! 私の分の夢も……託していいかな」
  セレナ 「サナ……」


  サナ  「悔しくないって言ったら、嘘になるけどっ……」


  サナ  「負けたみんなの分も頑張って……、ここの誰よりも凄かったんだからっ……」
  セレナ 「うん……」


 サナもまた、負けてもセレナを応援する、純粋な子だった。
 セレナと一緒に夢を目指した、一番のライバル、サナ。涙するほどの悔しさに、声を震わせてセレナにエールを送る仕草は、心にしみるものがあった。
 
 と同時に、ここでのサナの仕草、見せ方は、考えられたものだなと思った。
 ミルフィもサナも、涙しながらセレナを応援した訳だが、ミルフィが涙を【視聴者に】見せたのに対し、サナには その描写が無かったのだ(コマ送りしても無かった)。

 前者ミルフィは、顔をしわくちゃにして泣く姿を見せ、そこからは彼女の悔しさが伝わって来た。
 そして後者サナは、“涙を見せないことによって”、不思議と悔しさが伝わって来たのだ。
 それは、“セレナの祝福に涙は似合わない”と、悔しいながらも泣きだすことを堪えているサナの気持ちを表現するのに十分すぎるもので、ミルフィとの差別化――、性格の違いも、上手く表現されていると感じた。

 なにはともあれ、敗れた相手にエールを送るミルフィとサナ――、セレナは旅の中、夢を追う中で、素晴らしい仲間を手に入れたようだ。



 そんな、仲間の期待を背負ったセレナ。
 しかし、控室に入った彼女の表情は冴えない。

 先ほどの演技のミスが、このような形で影を落としてしまったのだから。

 決勝に勝ち進み、これからエルと競い合う、夢を追う中で最高の舞台を前に、負傷してしまったセレナ。
 パフォーマー自身の表現力も審査に大きく絡んでくるトライポカロンにとって、これは致命的だった。セレナ自身も、それは痛いほど分かっているはずだ。

 これまでフォッコイーブイの失敗はあっても、セレナ自身の演技ミスと言うのは、これが初めて。これまで問題なく進んで来たセレナは、本番前、一番大事な時に、初めてミスを犯してしまったのだ。
 最悪な話、ポケモンの負傷なら、(可哀想だが)その子を外せば とりあえずは何とかなるが、トレーナー自身の場合、そうは行かない。

 セレナにとって、これは痛恨のミス、悔やんでも悔やみきれないはずだ。
 なにせ、一緒に夢に向かって頑張って来たテールナーヤンチャムニンフィアにも、影響してしまうのだから……。


 その時、控室がノックされ、一人の女性が訪ねてきた。

 てっきりサトシたちかと思ったが、その正体はヤシオだった。
 セレナにとっては、エルに勝てないと言い放った張本人で、それがポカロン界の大物と言うのだから、動揺は隠せないと思う。

  ヤシオ 「見せてご覧なさい」
  セレナ 「えっ?」


  ヤシオ 「怪我よ」
  セレナ 「どこでそれを……!?」


 おすましニンフィア可愛い。


  ヤシオ 「動きで分かるわ」 クイッ
  セレナ 「ぅっ……!」
  ヤシオ 「握るのが やっとってとこかしら」

 やはりヤシオには、セレナの怪我は お見通しだったようだ。
 流石、伝説のプロデューサーと呼ばれているだけのことはある。セレナの表情ではなく、あの一瞬の動き一つで、彼女の怪我を把握したのだから。

  ヤシオ 「決勝は辞退しなさい。これじゃマトモなパフォーマンスは出来ないし、ましてやエルに勝つなんて無理よ」

 ここで更に、セレナに追い打ちが かけられた。
 ヤシオが言うからには、それは事実。この怪我で決勝戦の演技をこなすなんて、不可能ではないが、決勝戦に求められるレベルから考えれば、とうてい無理な状況なのだろう。
 それはある意味、ドクターストップより残酷なものなのかもしれない。

 それを聞いたセレナは、いまの想いをヤシオに語った。

  セレナ 「私……、私たちの夢なんです。何も無かった私が やっと見つけた、ポケモンたちとの夢……。ここまで来たから、最後まで諦めたくないんです!」

 セレナにしてみれば珍しく、力強く、言い放った。
 ポケモンたちと目指す夢……、サイホーンレーサーの練習から逃げ出したセレナが、自分自身で見つけた、大きな目標……。
 それほどまで、セレナがこの夢に本気だと言うことだ。

 そしてその背景には、セレナがサトシから学んだ事柄がある。

 ポケモンたちとの夢……、それは、サトシがポケモンマスターを目指すこと――、それを素敵だと感じ、セレナも探し始めたことだった。

 最後まで諦めたくない……、それは、サトシがいつも言っていること――、それを格好良いと感じ、素晴らしい信念だと感じ、いつしかセレナにも芽生えたことだった。

 その2つを今、こうして大物に力強く言えるセレナからは、大きな成長が感じられた。
 ただただサトシとの旅に同行していた初期とは違い、自分の夢を、信念を持ったセレナ。この場面で自然と言い放つことが出来たセレナは、彼女も無意識のうちに、サトシの影響を大きく受けていたのだろう。
 セレナの心はサトシが支えている――、そう感じさせるシーンだった。


 そんなセレナの訴えに、ヤシオはエルの面影を見た。

 それは、恐らくレッスン中だろうが、足首を怪我しても なお練習を続行しようとする、カロスクイーン前の、若き日のエル――。
 ……何というか声にも容姿にも若々しさが感じられないが、その場のエルも、セレナと同じように、「最後まで諦めたくない」と訴えていたのだ。


  ヤシオ 「……ホント、どこまで似てるのかしら」
  セレナ 「えっ?」
  ヤシオ 「ワンステージだけよ。それまでは持つようにしてあげる。終わったら医者に診てもらいなさい」
  セレナ 「……はいっ」

 ヤシオは元より、セレナが当時のエルに似ていたと感じていた。
 それが今回、完全に2人の姿が重なって、ヤシオは恐らく、セレナに大きな可能性を感じたのだろう。
 棄権を促したにも関わらずテーピングで応急処置をしたのは、セレナの演技を見てみたいから、……いや、エルの演技をセレナに見せたかったからなのか。

 ヤシオは、セレナにチャンスを与えたのだ。



 そうして迎えた決勝戦

 多くの観客を前にしても動じないセレナの姿に、現カロスクイーン・エルは思う。

 “ 覚 悟 を 決 め た 人 に 、 情 け は 無 用 ”だと。


 始まるセレナのパフォーマンス。
 これまでの全てを注ぎ込み、ライバルたちの期待を、仲間たちの応援を一心に背負った、セレナの最後の舞台。

  セレナ 「さぁ行くよっ!」

 自信に満ち溢れたセレナの掛け声とともに、彼女のパフォーマンスが始まった。

 始まったのだが……、それは壮大な演技だった。
 何が壮大かって、BGMがドリドリ・セレナver. であることに加え、彼女のダンスや構図、テールナーヤンチャムの動きが、XY編時代のEDドリドリのアニメーションと合わせて来たからだ。

 足踏みから始まり、スポットライトに照らされ、テールナーは尻尾を振り、ヤンチャムはサングラスをキメる。ニンフィアはそれに違和感なく溶け込み、ダンス、旋風、セレナのアピールなどなど、それは丁寧に、かつ完璧に、ドリドリを彷彿させる動きだった。


 言ってみれば、これは壮大な伏線。
 当時このEDアニメが、セレナの最後のステージを表すものだと、いったい誰が予想し得たであろうか。

 そして、それが伏線と考えれば一層奥深く感じるのが、EDドリドリの舞台設定。
 EDドリドリでは、セレナが小さな舞台で、フォッコヤンチャムと共に踊っていた。セレナの“夢の中”で。

 それが今回、セレナは大きな大きな舞台で踊っているのだ。
 それは正しく、“夢が叶った”、“夢を叶えた”セレナの姿。

 EDがドリドリに変わったのは、セレナがヤンチャムをゲットし、カロスクイーンを目指すと言う夢を決めた時。それからおよそ1年4カ月目にして、セレナはその夢を、形にしたのだ。

 これほどまでに感激を誘う描写、今までのアニポケでは見たことが無い。
 旅の目的、自分の夢を見つけるのが遅かったセレナ。それに伴う悩みや葛藤、焦りや失敗を知っている我々だからこそ、このセレナのステージは、心打たれるものがあった。


 そんなセレナのパフォーマンスは、これまでの彼女の経験を凝縮させたものだった。
 誓いの枝をリレーして、炎はダイナミックに、踊りは優雅に、演技は楽しく。
 フィニッシュはテールナーヤンチャムニンフィア、皆で作り出した大輪が花開き、観客たちを魅了させた。

 夢を掴まんとするセレナの本気のステージは、ここに大成功を修めたのだ。



 続くは、現カロスクイーン・エルのパフォーマンス。

 カロスクイーンと言う立場を賭けての勝負、エルにしてみれば防衛戦と言ったところか。
 クイーンの証であるティアラを外しての登場だが、これが微妙に似合ってなくて……。エレーナ仕様は可愛かったのだが……。

 そんなエルの演技は、マフォクシービビヨンフレフワンと共に、カロスクイーンとしての威厳を見せるようなものだった。
 セレナが“若々しい元気さ”だとしたら、エルは“クイーンの優雅さ”。そんなエルの しなやかな魅せ方に、観客はオールスタンディング。そのパフォーマンスに見入っていた。


 そんな彼女の演技を見、セレナは思う。

  セレナ 「(エルさんのパフォーマンス……、エルさんの笑顔は、みんなに力を与える……。私、みんなに与えて貰ってばかりだ……)」

 エルの力を知ったセレナは……、恐らく既に、自分の力がエルに及ばずと、分かったのだろう。

 エレーナとしてセレナにアドバイスしたエルに、セレナは、“みんなをハッピーにする笑顔の大切さ”を教わった。
 それがどれほどのことか、セレナは この舞台で、身をもって実感したようだ。

 楽しく踊ることも勿論重要だが、プロのパフォーマーとして、それだけでは足りない。
 パフォーマーとは、その演技で、皆に笑顔を与える――、力を与える――、活気を与える――。そんな存在でなければいけないのだ。そうでないと、プロとして通用しない。それこそ、自己満足で終わってしまう。

 自分に足りないものを見つけたセレナは、負けを確信しつつも、その表情は穏やかだった。
 自分自身を見つめ直すキッカケを掴んだような、一種の清々しさすら感じるセレナ。そしてこれもきっと、エルの力なのだろう――。



 最終投票の場。

 みなに見守られながら、セレナは判定を待つ。
 エルと同じステージで。エルの隣に立ちながら。それがどれほど凄くて光栄なことなのか、その重みを、セレナは噛みしめていることだろう。


 サトシたちが――。


 母親が――。


 ライバルたちが――。


 友達が――。


 旅を支えてくれた人が――。


 見守ってくれた人が――。


 共に過ごした人が――。


 忘れない仲間が――。


 こんなにも多くの かけがえのない存在に支えられ、セレナは、セレナの夢は、一つのカタチを迎えようとしていた。


  ピエール 「栄光のカロスクイーンは……、パフォーマー・エル! クイーンの座を守り通しましたぁ!」


 沸き立つ観客席。
 このポカロンの勝者は、やはりと言うべきか、現カロスクイーン、エルだった。

 残念がるユリーカだが、夢はまだまだ終わっちゃいないと、サトシがサトシらしいらしい言葉でセレナの健闘を労った。

 セレナの母親――サキは、これほどまでに成長した娘の大舞台に、涙を流していた。

 点差は圧倒的だったが、エルと競う舞台で、セレナを支持してくれた観客が大勢いる。それだけでも、とても凄いことではないか。


  セレナ  「やっぱりエルさんは凄い……」
  テールナー 「てんなぁ……」

  ニンフィア 「ふぃぃぁ」
  ヤンチャム 「ちゃむちゃぁむ」

 エルの演技は、セレナたちに、悔しさより、次への目標を与えてくれた。
 でなければセレナたち、こんな良い表情をする訳が無い。


 ティアラを贈呈されたエルが、セレナに語り掛ける。

  エル  「セレナ、楽しかったね。また一緒にステージに立とうねっ」
  セレナ 「……はいっ。もっともっと練習して、必ずエルさんを追い越してみせます!」
  エル  「臨むところよっ」


 トライポカロン・マスタークラスは、笑顔で幕を閉じた。

 またいつの日か、ビューティフルでエキサイティングなステージが開かれることを期待して――。 by ピエール



 閉会後――。

 控室で、手首の怪我を治療して貰ったセレナの元に、ヤシオが訪れた。

  ヤシオ 「怪我はどう?」
  セレナ 「もう大丈夫です。ありがとうござい……」
  ヤシオ 「二度とこんな無茶はしないで。本気でエルに勝ちたいならね」
  セレナ 「……そうですね。私、ヤシオさんの言った通り、エルさんに勝てませんでした」

  セレナ 「エルさんにあって私に無いもの……、さっき、エルさんのパフォーマンスを見て、分かった気がしました。私は未熟だし、仲間やポケモンたちに、いつも助けて貰ってばかり……」

  セレナ 「でもエルさんは、人を笑顔にしたり、見ず知らずの私にアドバイスしてくれたり、与えることが出来る人で、今まで貰ってばかりの私ですけど、クイーンになって、今度は色んな人に恩返ししたい」

  セレナ 「元気を与えたり、アドバイスや、時には怒ってあげることも……。だから、もっともっと頑張らなきゃ。立派なクイーンになるために……!」

 エルと自分との違いに気付いたセレナは、決意に満ちたような、とても良い顔をしていた。
 エルの演技を舞台で目の当たりにして気付いた答え……、それは、エルがセレナに教えたとも捉えることが出来る。

  ヤシオ 「……それが分かったなら、貴方は良いパフォーマーになれる」
  セレナ 「ぇっ?」
  ヤシオ 「アタシと一緒に来ない?」
  セレナ 「どういうことですか……?」
  ヤシオ 「全てを教えるわ。パフォーマーの全てを。……返事は急がないから、よーく考えて決めなさい」


 ヤシオは、セレナを認めた。そして、プロデュースする価値のある存在だと、確信した。

 セレナに足りないものは、“与える力”。
 それを理解できたとき、次のセレナの目標は、それを手に入れること。クイーンになって、エルが自分にしてくれたように、誰にでも優しく、沢山の人に元気を与え、アドバイスして、支えてあげることが出来る存在になること。
 プロのパフォーマー、カロスクイーンとは、そういう人物なのだ。

 セレナがヤシオの元につけば、必ずや、カロスクイーンの器に恥じないパフォーマーとなるだろう。
 セレナの“新たな目標”を叶えるためには、願ってもない お誘いだった。


 そんな遣り取りを、偶然耳にしてしまったサキは――。



 ― * ― ― ― * ― ― ― * ― ― ― * ― ― ― * ― ― ― * ― 



 夕刻、セレナの仲間たちが集合した。それは、新たな門出。

  セレナ  「みんなの分 託されたのに、負けちゃって……」
  ミルフィ 「なに言ってんのよ。ここからまた、新しい第一歩よ」
  ネネ  「もっと色々なパフォーマンスを考えて、アッと言わせて見せるから」
  サナ  「私も絶対に負けないよ!」
  セレナ  「うん。私もっ!」

 こうしてまた、彼女たちは、新しい目標へと挑んでいく。
 敗退があるからこそ、次に繋げる気力が湧く。次に挑戦する信念が生まれると言うものだ。

  ミルフィ 「あっちの方も進展させなさいよ〜」
  セレナ  「ふぇっ……」


  サトシ  「ん?」
  ピカ  「ぴぃか?」


  セレナ  「ミルフィぃっ!」
  ミルフィ 「」 ニヤニヤ


 最後の最後の最後までセレナを煽るミルフィ。いやしかし、それでこそミルフィと言うべきか。
 ひとまずここで分かったのは、ミルフィは別にサトシに気がある訳ではなく、単純にセレナを揶揄っていただけだったらしい。
 しかししかし、今回は揶揄っているのは事実だが、所謂“私がサトシを奪っちゃおうかな〜”的な意図は見えず、あくまでセレナに、“早くサトシと くっ付け”と言う意味合いが強い。
 ミルフィは最後の最後で、セレナの恋を応援したと言う訳だ。

 こうした接し方の違いと言うのも、このマスタークラスを戦い抜いた結果であり、セレナとミルフィに限らず、彼女たちの絆は、より深いものになったのだろう。

 またいつの日か、彼女たちがステージの上で競い合える日が訪れることを信じて。
 セレナたちのトライポカロン・マスタークラスは、こうして幕を閉じた。



 ……一方、善戦したもう1人の乙女、ムサシ。
 そして、優勝を逃した機嫌の悪さを恐れるコジロウたち。

  ムサシ  「さぁて」
  コジロウ 「はいっ!」
  ニャース  「はいニャ!」
  ムサシ  「今日は美味しいもの食べるわよー!」
  コジロウ 「えっ……落ち込んでないのか!?」
  ムサシ  「当然でしょ。ここまで来れたのもアンタたちのお陰だし、まぁ……感謝してルンパッパ」


  コジロウ達 「「「 ムサシぃぃぃぃぃ!!! 」」」


  ムサシ  「なによ気持ち悪い!」
  コジロウ 「どこまでもついて行きますムサシ様ぁ」
  ニャース  「ムサシさまぁぁぁぁぁ」
  ムサシ  「財布はコジロウよ!」
  コジロウ 「出す! すげぇ出すから!」
  ニャース  「ニャーも出すニャ!」
  ソーナンス 「そぉぉぉぉぉなんすぅ!」


 君たち仲良すぎだろ!
 本当に、悪役には勿体ない面子である。ロケット団たちの未来にも栄光あれ!



 ― * ― ― ― * ― ― ― * ― ― ― * ― ― ― * ― ― ― * ― 



 その夜、セレナたちは、早くもサキと別れた。1泊くらい母娘水入らずでと思うが、サイホーンたちに留守番させている手前、そうもいかないらしい。

 セレナは別れ際、母親を呼び止める。
 しかし、「なんでもない」と言うに留まった。

 おそらく……、ヤシオに誘われたことを、相談したかったのだろう。
 けれどそれは、それこそ長期間家を空けることになるし、サトシたちとの旅を中断することにもなる。
 迷いが大きすぎて、逆に、親に相談できないというのはよくある話だ。

 一方で、サキもセレナの呼び止めを、特に気にしなかった。
 ……気にしなかったと言うのは、表面上の話。何せサキは、セレナとヤシオの会話を聞いている。セレナが何を思い、何を迷っているか、彼女には分かっていたはずだ。
 けれども敢えてそう対応した理由は、きっと、セレナを信じていたから。セレナが自ら考え、悩み、導き出した答えを、尊重したいから――。

 だからこそサキは、セレナに言ったんだと思う。
 「全力でやったんなら、それでいいの。次に向かって走り出せればね」と。



 そんなサキの意を汲んでかは分からないが、セレナは就寝間際まで、テールナーたちと一緒に、今後について考えていた。猫みたいな体勢のニンフィア可愛い。


 そんな彼女の元に歩み寄るは、主人公サトシ。
 きっと、就寝時刻になっても部屋に戻らないセレナたちを、探していたのだろう。

  サトシ 「どうした? 痛いのか?」
  セレナ 「ううん。ちょっと、考え事してて」
  サトシ 「なんだそっか。……もしかして、次のパフォーマンスのこととか?」
  セレナ 「うん。そんなところ」

 流石にセレナ、ヤシオに誘われたとは言えなかった。言えるはずが無かった。
 それは即ち、サトシと別れることになるのだから。

  サトシ 「分かる! オレもバトルで負けちゃっても、次はどんなバトルにしようか、今度は勝つぞ〜って、ワクワクするんだよなぁ」
  セレナ 「サトシは いつも前向きで凄いな」

 失敗しても引きずることなく、常に次のことを考えているサトシのことを、やはりセレナは、尊敬していた。
 サトシの前向きな気持ちと諦めない心、サトシに自覚は無いだろうが、セレナにとって、それは一種の目標のようなもの。マスタークラスに挑むに当たった心構えも、セレナはサトシのそれに、良い意味で影響されていたのだから。

  サトシ 「そうか?」
  ピカ 「ぴぃかちゅぅ」
  セレナ 「……サトシだったら、迷わないんだろうなぁ」

 そう口にしたセレナは、自分とサトシを比較していたのかもしれない。
 ヤシオに誘われ、答えを導き出す大切な場面、サトシのような前向きな心を持っていれば、ビシッと決められるのだろうな、と。

  テルナ 「てななぁ……」
  サトシ 「オレだって、迷うことぐらいあるさ」
  セレナ 「えっ?」

 しかし、サトシの答えは違った。
 前向きなサトシでも、迷うことはある――。憧れの彼の意外な事実に、セレナは驚いたようだ。


  サトシ 「でもさっ……、迷ってる時間があるんなら、まず動いてみる。それで失敗したって、何かは残る。無駄なことなんて何もないさ!」
  セレナ 「サトシ……」
  サトシ 「さぁ寝ようぜ。明日も朝早いぞ〜」
  ピカ 「ちゃぁ〜〜〜」
  セレナ 「うん」

 ピカチュウの“ちゃぁ〜”が久々に聞けたことは置いといて、迷うことに対するサトシの考えに、きっとセレナは救われたんだと思う。

 迷って、迷って、それで判断を遅らせるより、まずは行動に移す――。
 その判断は、いつか自分にとってプラスに働く――。
 そして、その経験は無駄にはならない――。

 長年旅を続けてきたサトシだからこそ言えること。
 長年旅を続けてきたサトシが言うからこそ、重みのある言葉。説得力のある言葉。

 憧れのサトシにアドバイスして貰えたからこそ、セレナは決心できたようだ。
 このセレナの表情が、全てを物語っていた。



 ― * ― ― ― * ― ― ― * ― ― ― * ― ― ― * ― ― ― * ― 



 翌朝、セレナはヤシオの滞在していたホテルに出向く。

 そして、頭を下げた。

  セレナ 「誘って頂けて嬉しかったです。でも今は一緒に行けません。すみませんっ……!」

 それが、迷い悩んだセレナが導き出した、答えだった。

  ヤシオ 「どうしてかしら? 悪い話じゃないと思うけど」
  セレナ 「凄く有難いお話しなのは分かっています。でも、このままサトシたちとの旅を中途半端に終わらせて、ヤシオさんについて行くのは、ダメだと思うんです」
  ヤシオ 「それは、お友達?」

 小さく頷いたセレナは、さらに続ける。

  セレナ 「最初は、ただ家を出たいって言うだけで、旅に出たけど、パフォーマーと言う道に出会って、ライバルたちや、エルさんに出会えて……、その先にあるものを、自分でしっかり見つけたい!」

 セレナの答えの背景には、そんな、彼女の強い想いがあった。
 ただの少女から、夢を目指す少女へ。沢山の出会いと経験が、セレナの人生を大きく変えたのだ。

 テールナーヤンチャムニンフィアも、彼女の考えに賛成する。
 セレナを支えてきたポケモンたちも、これは大きなチャンスではあるけれど、彼女の想いを尊重したのだ。

 セレナと言う少女は、こんなにも頼もしい仲間たちに、支えられているのだ。


  セレナ 「この旅を最後まで遣り遂げて、納得できる答えが見えたら、その時は……」

 ……しかし、それは虫が良い話だ。
 ポカロン界の偉大な人物からの誘いを断っておいて、旅が終わってからにして欲しいなんぞ、傍から見れば、失礼極まりない。しかもそれが、そういったことを重視するプロデューサー相手なら尚更。
 ヤシオはセレナの言葉を聞き終わる前に、車に乗り込んでしまった。

 ある意味それは、当然の結末。
 落胆とも後悔とも、しかし“これで良かったんだ”と言う覚悟すらも感じる表情のセレナ。


 けれど、相手はセレナに可能性を感じ、エルの面影すら見た、ポカロン界の伝説の存在、ヤシオだ。
 

  ヤシオ 「良いわ」
  セレナ 「!」
  ヤシオ 「納得するまで突き進みなさい。そして納得することが出来たら……、ここに連絡ちょうだい」


 ヤシオはセレナの導き出した答えを、大切にしてくれた。
 納得する答えを見つけること――、それは、セレナ自身の成長にもなるし、その判断を下したセレナの想いを、尊重してあげたかったのだろう。

 ヤシオから名刺を受け取ったセレナは、それを大切に握りしめ、ヤシオの乗る車を見送った。
 セレナにとって、ヤシオに自分の想いが通じたと、嬉しかったはずだ。

 そしてまた一つ、サトシがセレナに勇気を与えたことになる。
 セレナがヤシオの誘いを断った背景には、勿論サトシ絡みのこともあるだろうが、しかしそれは、決して好きとか言う意識では無く、“サトシに与える存在になりたい”と言う想いがあったのだろう。
 サトシに恩返しをしたいと、心のどこかで思っているのだろう。

 今やセレナは、普通の女の子では無い。
 カロスクイーンに挑み、同じ舞台に立った、アマチュアパフォーマーの頂点。
 ヤシオに可能性を見出され、次期カロスクイーンに最も近い所に立つ、注目の存在。


  セレナ  「次はサトシの番だねっ」
  サトシ  「あぁ。エイセツジムだ。勝つぞ〜! 特訓するぜ〜!」
  シトロン 「お付き合いしますよ。とことんね」
  ユリーカ 「やる気マンマンね〜サトシ!」
  サトシ  「おう!」
  セレナ  「(……うん。負けてられないな!)」

 もう終盤に入っている、サトシたちの旅。
 サトシの前向きな姿勢に負けじと、セレナも気持ちを改める。

 これからセレナは、何を学び、何を得、どんな答えを見つけるのだろうか。

 カロスクイーンへの挑戦は、まだまだ終わらない。

 セレナが未来への扉を開くとき――、それは、そう遠くない日に訪れることだろう。



● 総括
 セレナのトライポカロンへの挑戦は、こうして幕を閉じた。
 沢山の仲間に支えられ、エルに負けるも、有終の美を飾ることが出来たセレナ。普通の女の子だった彼女の成長物語は、その背景を知っているからこそ、感慨深いものがある。
 次の目標は、旅の中で、納得する答えを見つけること――。それが、セレナを次のステップへと成長させるものだと、我々は信じている。


● 次回ひとこと予告
 → 某リンゴ系IT会社を巻き込んでいくスタイル。


● おまけ
 グロリオまで原作より大きく迂回。今後、エイセツへのルートに復帰……するはず。