ポケモンXY感想−69・70話目 (特)

第69話 「湿地帯の戦い! ヌメルゴンフラージェス!!」
第70話 「決着! ヌメルゴン虹の彼方へ!!」

 ■ 脚本:藤田伸三  
 ■ 作画監督:緒方厚 (69話)、片山みゆき (70話) 
 ■ 演出:うえだしげる(69話)、南川達馬 (70話)


◆ 湿地帯と仲間たち

 クノエシティを目指すサトシたち。
 シトロンも問題なく復帰し、川のほとりでランチタイム。やはり料理要員は大切である。

 そこに通りかかったのは、マダツボミを連れた初老の男性、ケンゾウ。
 彼はこの先の湿地帯を管理していて、ヌメルゴンとは、ヌメラ時代からの知り合いだった。

 第55話で描かれていたヌメラの故郷の場所が、ここで明らかになった形だ。まぁ明らかもなにも、原作の生息分布から、おおよその予想は付いていたが。


 ならばそこへ行ってみようと言う提案に、ヌメラの表情は暗い。
 たびたび回想で登場していた、湿地での野生ポケモンの襲撃が、ヌメルゴンを躊躇させているのだろう。
 しかしマダツボミの説得で、ヌメルゴンは湿地に顔を出してみようと思ったようだ。懐かしの故郷、懐かしの友達を前に、ヌメルゴンはどんな反応をするのだろうか――。


  ケンゾウ 「そうか。ヌメルゴンはサトシ君にゲットされたんだねぇ。良い人たちに、出会えたんだな」
  ヌメルゴン 「めんごぉ!」

 故郷の湿地に到着し、ケンゾウはヌメルゴンに そう言った。
 サトシにゲットされたことが幸せに見える第三者は、ティエルノに続いて2人目。それだけサトシとの出会いが、ヌメラにとって良い刺激になったのだろう。ヌメルゴンにまで進化できたのも、サトシとの出会いがあったからこそ成せたことだ。

  ケンゾウ 「どうだい、久しぶりの故郷は?」
  ヌメルゴン 「………♪」

 故郷の風景を満足そうに眺めるヌメルゴンだが、ここで一つ、疑問が浮かぶ。

  ユリーカ 「でも、なんでヌメラスワンナから落ちてきたんだろう?」
  セレナ 「それにあの時、すごく元気無かったし……」
  サトシ 「ヌメルゴン、なんでここから出て行ったんだ?」

 そう、何故ヌメラが、スワンナから落ちてきたのかと言うことだ。

  ケンゾウ 「それは、この湿地帯が関係してるんだ」

 ケンゾウが曰く、この湿地帯には、ポケモンの心と体を癒す泉があるらしい。
 それまで湿地帯に住むポケモンたちは仲良く暮らしていたのだが、突然、余所からやって来た野生ポケモンたちが、力ずくで、その泉を奪ったのだ。

 お馴染みスピアーはじめ、メガヤンマカイロスアリアドスハブネーク。そしてボスと思われるフラージェス
 突然攻撃してきた、(見た目で悪役に抜擢されたと思われる)野生ポケモンたちに、湿地帯に住んでいたポケモンたち――ウパーやヌオー、ハスボーゴクリンスワンナは、成す術も無い。

 逃げる間もなく集中砲火を受けた湿地帯のポケモンたち……ヌメラもその中の1匹だった。
 友達のウパーを気遣ったがためにフラージェスに目を付けられ、“ムーンフォース”を浴びてしまう。そして、逃げ惑うスワンナの背中に落下してしまい、そのままスワンナと一緒に、空の彼方へと飛び立って行った訳だ。

 ……ん?

 てっきり悪役スワンナに連れ去られたとばかり思っていたが、実はスワンナは仲間で、不可抗力的に、湿地帯から去ることになってしまったようだ。
 だったらスワンナ、落としたヌメラを助けてやれよと突っ込みたいところはさておき、残されたヌメラの仲間はと言うと、湿地帯から追い出された――訳では無く、湿地帯の隅に追いやられてしまったようだ。


  シトロン 「静かですね……」
  セレナ 「ここで争いがあったなんて……信じられない」

 豊かな生態系営む湿地帯は、とても静かだった。それが普通なのだろうが、ヌメラたちを追いやった争いがあったことを考えると、サトシたちにとって、にわかに信じ難いようだ。

 ヌメルゴンは、思いだす。
 これまでの、平和だった湿地帯を。仲間のポケモンたちとのびのびと暮らしていた、平和だった日常を。

 突然、雄叫びを上げたヌメルゴン
 思い出の場所を占拠されてしまったこと、仲間のポケモンたちと平和な日々を懐かしみ、たまらず声が出てしまったのだろうか。


 その声は、ヌメルゴンの仲間の元にも届いた。
 ヌメラと特に仲の良かったウパーは、ヌメルゴンの元へと近付く。そして、大きく姿を変えたヌメルゴンに、あの日のヌメラの面影を見つけた。……いや、全然似てないけど。

 そんなウパーをキッカケに、ハスボーやヌオー、ゴクリンたちが現れる、みんな、ヌメラの仲間だ。


  サトシ 「ヌメルゴンは、みんなに好かれてたんだな」

 このサトシの発言の通り、ヌメルゴンは、仲間たちにとっても、大切な存在だったらしい。
 それに、フラージェスの襲撃で安否不明となってしまったヌメラが、大きく成長して帰って来たのだから、みんな嬉しいはずだ。

  サトシ 「おーいヌメルゴン! 成長したお前の力、お前の強さをみんなに見せてやれよ!」

 サトシにとっても、自分のポケモンがこれだけ皆から好かれているのは、鼻の高いことだろう。
 仲間たちからすれば、ヌメルゴンは“出世組のエリート”と言ったところか。その力を示すため、ヌメルゴンは大空へ向けて、“りゅうのはどう”を打ち放った。

  ヌメルゴン 「どや?」
  仲間達 「やんややんや!」

 ……みたいな遣り取りをしていたところ、慌てた様子で、1匹のスワンナがやって来た。

  スワンナ 「すわああぁぁぁぁすわっすああぁぁぁすわぁぁぁんすわぁぁぁ!」

 コジロウのウツボットを彷彿させる喧しさ。
 しかしそれだけ重要な連絡だったのは明らかだ。



◆ 野生への干渉

 その直後、遠くで爆発音が聞こえた。
 ケンゾウが言うには、方向的には、ウパーたちの住処の場所。

 実はヌメルゴンが雄叫びを上げた際、フラージェスにもそれが伝わっており、生意気だと思われたためか、攻撃体勢が敷かれたようだ。


  サトシ  「そうか。助けに行くんだな!?」
  ヌメルゴン 「めぇごっ!」
  サトシ  「それならオレ達も!」
  ケンゾウ 「待った待った。これは、野生のポケモン同士の争いだ。我々人間がかかわるべきじゃない」

 弱い者を助けるというサトシの持ち前の正義感が いつも通り働くも、今回は違った。
 ケンゾウの制止を受けたのだ。

  サトシ  「いやっ……でも!」
  ケンゾウ 「サトシ君の気持ちは良く分かる。でもね、ここでサトシ君やピカチュウが出て行くのは、フェアじゃないと思うんだ」
  サトシ  「えっ……」
  シトロン  「ポケモンの問題はポケモンに解決させる……そういうことですね」
  ケンゾウ 「その通りだ」

 地味に、今まであまり語られてこなかった側面が、ここで描かれる。
 ポケモンたちの抗争は、まさしく、現実で言う野生生物の弱肉強食の概念だ。弱い者が淘汰され、自然界はバランスを保っている。
 今回の場合、少し意味合いは異なるが、“人間が無暗に自然に干渉してはいけない”という考えは同じである。小さい子には分かりにくいことかもしれないが、理由付けを“フェアじゃない”と表現した脚本には、なかなか頭が下がる。


  サトシ 「……分かりました! オレ、手出しはしません! だけど、ヌメルゴンたちを応援したいんです! それなら良いですよね!?」

 すぐには納得出来ないことだろうが、考えた末のサトシの答えは、これだった。
 手出しはせず、ヌメルゴンを応援する。まさにサトシらしい行動だ。
 そしてそれは、自分のポケモンを――ヌメルゴンを信頼していなければ出てこない言葉だろう。
 自分のポケモンを見守るだけと言うのは、ちょうど“バトルパレス”のルールに通じる面がある。同施設のテーマは、“ポケモンとの絆が試される”。まさに、サトシとヌメルゴンの絆が試されようとしていると言っても過言ではないだろう。


 湿地では、今まさに、フラージェスたちがヌメルゴンの仲間に攻撃するところだった。
 彼らが湿地帯の隅に追いやられていることを考えると、ヌメルゴンの雄叫びに対し、“よからぬことを考えない方がいいぜ”と警告の意味合いを込めた攻撃なのかもしれない。

 それもそれで理不尽な話だが、攻撃が直撃するタイミングで、ヌメルゴンが彼らを庇う。そして、“がまん”を発動し、余所者たちを蹴散らした。


 ウパーたち、唖然。これほど“あんぐり”が似合うシーンも無い気がする。


 当然、攻撃された余所者たちは怒り心頭。すぐにバトルする流れになってしまったが、それまで やられる一方だったウパーたちも、バトルに参戦する。

 ヌメルゴンの反撃で弾みが付いたのか、ヌメルゴンの存在が自信に繋がったのか、あるいはその両方か。弱者が一致団結して立ち向かう様は、やはり良いものだ。

 そんな光景を高台から見守るサトシたち。
 たまらずピカチュウが参戦しようとするのを、サトシは しっかり制止した。

  サトシ 「ダメだピカチュウ! ケンゾウさんが言った通り、これはあいつらの戦いだ」

 普段熱いサトシが、こうして冷静にヌメルゴンのバトルを見守って居られるのも、シリーズを通して彼が成長した証だろう。
 そして何より、ヌメルゴンを信頼している証拠だ。



◆ 抗争の湿地帯

 戦況は五分五分だが、見かねたフラージェスが前線に立つ。
 
 余所者のボスであり、ヌメラ時代、“ムーンフォース”を喰らったヌメルゴンにとって、このフラージェスは恐怖の塊でしかないはずだ。足元が震える。

 それを見抜いたフラージェスは、不吉な笑みで威圧する。
 自然界、野生生物にとって、威圧、威嚇による戦況の良し悪しと言うのは明白だ。いま、バトル前から、ヌメルゴンは負けてしまっている。

 その時だ。

  サトシ 「ヌメルゴン! お前な大丈夫! 大丈夫だ! お前は強くなった。もうあの時のヌメラじゃない! 自信を持って戦うんだ!」


 サトシの言葉に、ヌメルゴンは自信を取り戻す。
 ミアレジム戦で、強敵レントラーに打ち勝ったことが、ヌメルゴンが強くなった何よりの証拠。それをヌメルゴンに思いださせることこそ、この状況を変える唯一にして最高の手段だった。

 ヌメルゴンフラージェスは、接戦を繰り広げるが、“グラスフィールド”によって、戦況は一変する。
 フラージェスの“ソーラービーム”は“りゅうのはどう”で相殺させたものの、“グラスフィールド”によって何故かそこら辺の花が急成長し、そこから“ソーラービーム”が打ち出されたのだ。
 そんな効果ねぇよ! という突込みはさておき、その攻撃はヌメルゴンでは無く、バックに居たウパーたちに直撃してしまう。
 これはフェアでないが、野生として生きているフラージェスにとってみれば、そんなこと関係ないのだろう。自分たちの住処を確保するために、フェアなんて綺麗ごとに過ぎないのだ。

 続くフラージェスの攻撃も、ウパーたちを狙う。ヌメルゴンより、ウパーたちを攻撃した方が得策だと、フラージェスは考えたのだろうか。
 ヌメルゴンの優しさを逆手に取った酷い作戦だが、やはり、野生ポケモンにそんな温情は通用しない。
 “ソーラービーム”、“ムーンフォース”と、続く強力なワザに、ヌメルゴンはウパーたちを庇う。そして、体力が削られていく。

 そもそも、“ムーンフォース”はドラゴンタイプに効果抜群。耐久力のあるヌメルゴンにとっても、そうそう連続で耐えられるものではない。
 そんな“ムーンフォース”の構えを、フラージェスは再び作る。ヌメルゴンは、ほぼ怯んでいる。

 そんなピンチを救ったのは、やはり、サトシの言葉だった。

  サトシ 「まだまだだヌメルゴン! オレは知ってる……お前の強さを。お前は負けない……お前はまだ行ける! そうだろ、ヌメルゴン!」

 それを聞いて、ヌメルゴンは立ち上がった。
 大切に育ててくれたサトシ――自分の力を認めてくれたサトシのためにも、ここで倒れてはいけないと奮起したのだろう。

 そんなヌメルゴンが放ったワザは……。


 “れいとうビーム”だった。

 それは“ムーンフォース”を蹴散らし、フラージェスへと突き刺さる。
 「じぇじぇっ!?」という あまちゃんチックな驚きの声を上げたフラージェスは、弾き飛ばされ、力なく、地に倒れ込んだ。


 ヌメルゴンの勝利だ。
 住処を奪われ、横暴に湿地を支配していた元凶に、ヌメルゴンは打ち勝ったのだ。

 喜ぶウパーたち。サトシたちも丘の上から歓声を上げる……が。


 突然、どこからか、2つの攻撃がヌメルゴンを襲ったのだ。
 サスペンスドラマだったら完全に殺されていたであろう演出。完全なる不意打ち、そしてフラージェスとのバトルでの疲労もあって、ヌメルゴンはその場に倒れてしまう。

 それと同時に、フラージェスの周囲に煙幕が立ちこめ、それが晴れると、フラージェスはじめ余所者たちの姿も消えていた。
 もっとも、それに気付いたのはシトロンだけで、サトシたちはヌメルゴンの手当てに急いだ。


 ケンゾウの小屋でヌメルゴンは手当てをして貰ったが、今日のところは安静にしている必要があるらしい。
 フラージェスの方も体力は消耗いているはずで、一時休戦となるようだ。


 夜も更けてゆき、ヌメルゴンピカチュウデデンネ、それに仲の良いウパーは、布団で寝息を立てている。
 そんな彼らを、サトシは静かに見守っている。

  サトシ 「お前ってホントに仲間想いだよな。初めて会った時から強くなりたがってたのは、ここの仲間たちのためだったんだな……」


 ヌメラが強くなりたがっていた理由、それは、余所者のポケモンたちを倒すためではなく、仲間たちを守るため――。
 最終的な目的は同じでも、この2つでは明確に違いがある訳で、ヌメルゴンの優しさが、そしてサトシの言う“仲間想い”の心が、ここで描写されていた。



◆ 奇襲とロケット団

 その時、窓ガラスが突き破らる。
 何事かと思えば、余所者のポケモンたちが、ピカチュウデデンネ、ウパーを さらって行ったのだ。


 すぐにヒノヤコマゲコガシラを出して応戦するサトシだが、余所者たちの数が想像以上に多く、ヒノヤコマが瞬殺。瞬殺。瞬殺。ヒヨクジム戦以来見せ場が無い。

 騒ぎで起き上がったヌメルゴンだが、加勢しようにも、まだ体力の消耗が回復していないようで、砂埃に撒かれ、余所者たちに逃げられてしまった。

 すぐ追いかけようとするサトシを、シトロンが止める。
 彼はケンゾウと共に、湿地帯の定点カメラ映像を解析していたらしい。定点カメラあったのかよ。
 それによると、ロケット団がカメラに映っていたとのことだ。

  シトロン 「ロケット団フラージェスたちを利用しているのかも……」
  サトシ 「十分考えられるな。ヌメルゴンフラージェスのところまで案内してくれ!」

 ヌメルゴンの先導で、フラージェスが居る場所へと向かうサトシたち。悪者が絡んでいるとなれば、ケンゾウも干渉に止めることは無かった。
 そんなケンゾウは、調べ物があるからと小屋に残り、後から合流することとなった。


 一方、癒しの効果のある水が湧き出る洞窟では、フラージェスフラエッテを抱いていた。その傍らには、ロケット団と、捕まったピカチュウたちも。

 フラエッテは体調を崩しているようで、フラージェスフラエッテを助けるために、この癒しの水を求めて、湿地帯にやって来たようだ。
 しかし、どのような理由であってもウパーたちを追いやるようなことは許される訳ではないが、しかし、一時的に癒しの水を求めていたからこそ、ウパーたちを湿地帯から完全に追い出さなかったのかもしれない。
 野生に生きるポケモンにとって、体調の悪いポケモンを仲間以外の目に晒すのは、やはり危険なことだ。そう考えれば、フラージェスたちの行動も、ある意味納得できる。

 で、そんなフラージェスたちに目を付けたのがロケット団だった。
 自分たちは仲間、フラエッテのために協力すると言って近づき、うまいこと言いくるめて、ピカチュウたちを捕まえさせる。
 日中のバトルでは、ヌメルゴンにトドメを刺し、煙幕でフラージェスたちを逃がしたのも、ロケット団の仕業。フラージェスたちを信用させるためだったらしい。

 その甲斐あってと言うか、フラージェスロケット団が味方だと信じ込んでいた。
 癒しの水の水量が減った理由を「ヌメルゴンたちのせい」と聞かされれば、ヌメルゴンたちに敵対心を向ける。ピカチュウたちが必死に違うと叫ぼうも、もはやヌメルゴンの一味としか見えていないようで、誤解を解くのは不可能だった。


 もっとも、癒しの水が減った理由は、ロケット団が密かに回収していたからなのだが。
 湿地体全体の水量まで減っており、小屋に残ったケンゾウは、その点を詳しく調査していた。採取した水の水質を調べた結果、治癒効果まで薄れてることが判明。ケンゾウも、サトシたちを追う形で水源へと向かった。


 フラージェスたちが居るのは、癒しの水の水源の洞窟。
 ヌメルゴンに案内され、そこに辿り着いたサトシたちだが、やはり、余所者のポケモンたちが警護をしていた。体調の悪いフラエッテを守るためだろう。

  サトシ 「待ってくれ。戦うつもりはないんだ。ピカチュウたちを返してほしいだけだ」
  ユリーカ 「ロケット団がいるんでしょ!? あいつら悪者だよ。騙されないで!」

 必死に訴えるも、もはや彼らにはサトシたちは悪者にしか映っておらず、攻撃を緩める気配はない。

  シトロン 「ここは僕に任せて! ホルビー! ハリマロン!」
  セレナ 「よぉし……私だって! テールナー、“かえんほうしゃ”!」


 セレナが案外容赦ないのは置いといて、2人が足止めしている間に、サトシとユリーカは、ピカチュウたちの元へと急ぐ。割かし珍しい組み合わせだ。


 サトシとユリーカ、それにヌメルゴンが、水源の洞窟に入る。

 そこにピカチュウたちは居なかった……が、振り返ると、そこにはフラエッテを抱えたフラージェスが。

 凄く怒ってるとお見受けします。

  サトシ 「お前たち、ロケット団に命令されてこんなことしたんだろ!? あいつら悪い奴なんだ!」
  ユリーカ 「そうだよ! 騙されてるんだよ!」

  フラージェス 「じぇじぇ! らっじぇ!」

 フラージェスは強い口調で水源を指さす。今にも枯れそうなその水源。

  ユリーカ 「水が減っている……。そう言いたいのかな?」
  サトシ 「まさか、オレたちのせいだって言うのか!?」

 慌てて否定するサトシだが、ここで、フラエッテの存在に気付く。

  サトシ 「子供……なのか?」
  ユリーカ 「でも元気ないみたい……」

 ここで“仲間”ではなく“子供”と言ったのは、いったい何故なんだろうか。抱きかかえる姿を見て、直感的に“子供”と思ったのだろうか。


 その時、地響きが起こる。

  サトシ   「なっ……なんだ!?」
  ユリーカ  「……見て水がっ!」
  フラージェス 「じぇじぇっ!?」

 相変わらず あまちゃんを彷彿とさせる声を上げるフラージェスだが、泉の中のみならず、そこから川のように流れ出る水も、どんどん減少していく。

  サトシ 「どうなってるんだ!?」

 そこに登場したのは、いつものロケット団だった。捕えられたピカチュウたちも一緒に居る。

  ムサシ 「泉 のみ ならず、湿地帯の水を一滴残らず奪ってやったわ。フラージェスごめんね〜。フラエッテがここ最近元気が無かったのは、アタシたちの仕業」
  サトシ 「どういうことだ!?」
  ムサシ 「フラージェスは病気のフラエッテのためにこの泉を奪ったのよ。全てはフラエッテのためだったってわけ。泣けるわねぇ。でも、アタシたちが全部頂いたわ!」
  ニャース 「ポケモンを癒すここの水を売って大儲けするのニャ」

 フラエッテが泉を奪った理由が、ロケット団側からサトシたちに語られた。
 当然、フラエッテの怒りはロケット団に向けられる。病気の仲間を助けたい思いに つけ込んだ卑劣な犯行……。今回はゲスイぞロケット団

  ニャース 「おミャーらのようなユル〜イ連中を騙すのは、実に簡単だったニャ」

 こう……、第63話のムサシ&ソーナンス分かれ道回で持ち直したロケット団の株が、また崩れ去った気がした。


 煙幕を撒いて逃げるロケット団
 その先は、岩場の頂上に停めてあったマンタイン型の飛行艇。下部のタンクに泉から奪った水を満載し、一気に逃げるつもりだ。


 セレナとシトロン、それにケンゾウとも合流したサトシたちだが、すでに宙を浮いている飛行艇相手に、成す術がない。唯一頼みのヒノヤコマも先ほど瞬殺されている。

  サトシ  「ヌメルゴン、泉を取り返すぞ。オレを投げろ!」
  ヌメルゴン 「ぬめんごっ!」


 
 こう、もはや視聴者からしてみれば、「オレを投げろ」と言われたところで今さら驚かないが、サトシとの付き合いが短いヌメルゴンにとっては、訳の分からない指示だったはずだ。
 しかし、即座に行動に移すヌメルゴン。頭の触手でサトシを掴み、言われた通り、飛行艇に向かって思いきり投げつけた。サトシとヌメルゴン、お互いの信頼関係が無ければ成せない業だ。

 サトシは飛行艇の翼に着地。
 それを追うように、フラージェスメガヤンマに乗って、翼に飛び移る。メガヤンマ、完全にアッシー君である。

 ……が、バランスを崩すフラージェス

 そんな彼女の手を、サトシは しっかりと掴んで、言った。

  サトシ   「来てくれたんだな、フラージェス
  フラージェス 「らじぇっ!」
 
 実質的な和解。ロケット団からピカチュウを、泉の水を奪還するため、争っていた両者が、共にロケット団に立ち向かおうとする。

 さらにヌメルゴンも、飛行艇に飛んで来た。地面に向けて“りゅうのはどう”を打ち出した、その反動で。地味に凄い。

 彼らを振り落とそうと荒い操縦を続けるロケット団。必死で耐えるサトシたちだが、このままでは長くは持たない。
 そこでヌメルゴンが、飛行艇の壁に向かって攻撃、穴を開け、内部に入ることに成功した。

 ※ 飛行中の飛行艇への攻撃、および穴を開けることは、大変危険ですのでやめましょう。


◆ 一つになる

 飛行艇内への潜入に成功したサトシたちは、ピカチュウたちの捕獲装置を発見……すると同時に、ロケット団が登場した。

  コジロウ 「なにしに来たんだフラージェス? もうオレたちに用は無いはずだぜ?」
  ムサシ  「女王様気取りのその鼻っ柱、圧し折ってやるわ!」

 飛行艇は自動操縦にしたらしいが、酷い言いっぷりである。そして、その狭い空間でのバトルが始まった。

 フラージェスバケッチャの攻撃が衝突し、爆風が襲う。狭い空間ゆえの反動だが、それによって生じた隙を、コジロウは見逃さなかった。
 マーイーカの“サイケこうせん”がフラージェスに迫るが……、彼女のことを、ヌメルゴンが体を張って守ったのだ。

 敵同士だった相手を庇うことが、どれだけ素晴らしい事か。これだけでも、ヌメルゴンの優しさ、平和主義のようなものさえ伺える。
 ……が、そのダメージを受けて膝をつくヌメルゴン。まだ完全に体力が回復していないゆえ、持ち前の耐久を発揮することも出来ない。

 それをよしとロケット団ヌメルゴンに攻撃を繰り出すが、フラージェスが“はなふぶき”で立ち向かう。大きなダメージに加え、バケッチャマーイーカを弾き飛ばして捕獲装置にぶつけたことで、ピカチュウたちが解放された。これで躊躇いなく攻撃できる。


 立ち上がるヌメルゴンに、フラージェスが手を貸した。お互いを庇い合い、晴れて、ヌメルゴンフラージェスは和解したのだ。

 結束すればパワー倍増、結末は早い。
 迫りくるバケッチャマーイーカの攻撃に、“れいとうビーム”と“ソーラービーム”という2つの強力ワザで対抗。ロケット団側の攻撃を弾き飛ばし、ムサコジをも巻き込み、飛行艇の壁をぶち破って、空の彼方へと吹き飛ばした。最近ソーナンス、対サトシたちで仕事してない。



 勝利の喜びも束の間、自動操縦の飛行艇で、小規模な爆発が起こる。あれだけ壁をぶち壊したのだから当然な訳で……。サトシたちに残された時間は少ない。いち早く脱出しなければならない。

 そんな攻撃は、地上でも確認できた。危険な状態の飛行艇から脱出する方法は……一つしかなかった。

  セレナ 「みんなお願い! サトシたちを助けて!」

 それは、野生ポケモンたちの力を借りること。
 メガヤンマフラージェスを乗せて飛ぶことが出来るのならば、数匹集まれば、サトシたちを助けることができるとセレナは踏んだのだろう。

 もはや和解同然のメガヤンマたちは、すぐさま飛行艇へと飛んでいく。

 サトシもそれに気付き、まずはピカチュウデデンネ、ウパーをメガヤンマに乗せた。
 次はフラージェスが乗る番……といったその時。


 タンクの配管から泉の水が吹き出し、バランスを崩したフラージェスが落下したのだ。

 水しぶきを浴びて反応が遅れたメガヤンマたちに変わってフラージェスを助けたのは、ヌメルゴンだった。
 頭の触手を伸ばしてフラージェスを捕まえたのだが……。


 今度は爆発が起こり、ヌメルゴンの巨体までも、飛行艇から落下してしまう。


  サトシ 「ヌメルゴン! フラージェス!」

 そしてサトシも飛び降りた。
 2匹を助けるために……、サトシが飛び降りた所で出来ることは無いだろうが、きっと体が勝手に動いたのだろう。プリズムタワーの時のように、大切なポケモンを助けるために。
 そしてその瞬間、飛行艇が大爆発。その爆風で加速をつけて、サトシは2匹の元へ落下していく。

 ヌメルゴンフラージェスを庇う形で、自らの体を低い位置に持って行った。フラージェスを守ろうとする覚悟が感じ取れる。
 追いついたサトシは、ヌメルゴンフラージェスを抱きしめた。

 そんなサトシたちを助けに入ったのはスピアーたち。普段は悪役としてアニポケを盛り上げてくれている彼らが、サトシたちを助けようとしてるのだ。
 しかし、150kgものヌメルゴンを3匹のスピアーで支えられる訳が無く、スピアーもろとも落下していく。

 そして……。

  ケンゾウ 「みんな! “みずてっぽう”で助けるんだ!」


 ウパーたちの“みずてっぽう”で、サトシたちは受け止められた。

 湿地帯のポケモンたちと余所者のポケモンたち――、争っていたポケモンたちが手を取り合ってヌメルゴンフラージェスを助ける様は、まさしくアニポケといったところ。彼らのボスだけでなく、その仲間たち皆が和解し合った瞬間だ。

 ベタな展開と言われればそうかもしれないが、野生に生きるポケモン同士、湿地帯を巡る抗争を繰り広げていたポケモン同士という点を考えると、こうして和解できたのは、“ポケモンらしさ”であると言える。
 これまでフラージェスたちを“野生に生きる動物”と照らし合わせて書いてきたが、果たして野生動物が“和解”なんて出来るだろうか。
 野生動物としてのポケモンを描きつつ、ポケモンらしく纏め上げる脚本は、とてもよく練られたものだと思うし、アニメならではの“気持ち良さ”さえ感じられた。


 一段落つけたいところだが、そうもいかない。
 ロケット団が泉の水を回収したせいで、湿地帯全域が干上がってしまったのだ。

  シトロン  「完全に乾ききってしまいましたね……」
  ケンゾウ 「このままでは、花も草も枯れてしまう。美しい湿地帯が……ポケモンたちの楽園が、失われてしまう……」

 それは即ち、湿地帯の“死”。植物にとっても、ポケモンたちにとっても、素晴らしい効果を与えてきた湿地帯が、枯れ果てようとしているのだ。

 そしてそれは、フラエッテの命にも関わる問題となる。
 もともとフラージェスたち余所者ポケモンは、治癒効果のある泉の水でフラエッテを回復させるため、湿地帯を奪い、ウパーたちを寄せ付けないようにしていた。野生として生きるポケモンが体力を回復する唯一の手段が、このままでは絶たれてしまう……。


 その時、ヌメルゴンが空に向かって雄叫びを上げた。

 “あまごい”だ。
 降り出した雨は湿地帯に注ぎ、どんどん潤って行く。

 それを見たフラージェスも動いた。

 “グラスフィールド”だ。

 “あまごい”が雨で湿地帯を潤すのならば、“グラスフィールド”は湿地帯を養分で潤すといったところか。
 生命の源である水と、それを支える栄養分。いま、抗争していたヌメルゴンたちとフラージェスたちの心が、完全に一つとなったのだ。それぞれがそれぞれの役割で湿地帯を潤わせ、復活させる……。
 それは、両者がこれから共生する道を生み出したと言えるだろう。


  シトロン 「“グラスフィールド”の力で……」
  サトシ 「わぁ……」
  セレナ 「湿地帯が蘇った」
  


 なぜ湿地帯が枯れてしまったのかを考えると、ロケット団が水を全て奪ったからと言うのは揺るぎないが、それによって、湧き出す水が、地面に吸収される量を下回ったためだと思われる。
 要するに、湿地帯に十分な水が溜まっていれば、湧き出す水と合わさって干からびることは無かったが、それが無くなってしまったことで、水の供給量が追いつかなくなってしまったと言う感じ――砂場に水をチョロチョロ出すようなイメージだ。
 そこで、湧き出す水を手助けする意味合いで、“あまごい”は有用な手段だったと言える。ただ、雨水は所詮雨水。そこに“グラスフィールド”による養分が合わさったことで、湿地帯が本来抱える水質の水が戻ったのだろう。
 勝手な推測だが、それらをやってのけるポケモンの能力は、本当に奥が深い。


◆ 共生の湿地帯

 湿地帯の復活に喜ぶポケモンたち。
 そして、ポケモンの治癒効果がある例の泉もまた、綺麗に復活していた。

 フラージェスは、そっとフラエッテを泉の水に浸す。これまでロケット団のせいで水質が悪化していた泉は、今や本来の効能を取り戻している。
 綺麗な泉に浸かったフラエッテは、ゆっくりと目を開けた。

 喜ぶフラージェスは、泣きそうな目でヌメルゴンたちの方を振り返る。
 「フラエッテが元気になりましたよ。さっきまで具合の悪かったこの子が、皆さんの協力のおかげで、こんなに元気に……!」
 そんなことを言いたげな表情だ。

 フラエッテフラージェスの腕の中から抜け出すと、彼女の手を取り、そしてヌメルゴンの手を取り、一つに繋がった。


 満面の笑みを見せるヌメルゴンフラージェス、そしてフラエッテ
 そんな彼らに抗争があったなんて嘘のようだ。共に戦い、共に湿地を守り、そして、一つの命を救った。
 野生に生きる生物たちがお互いを認め合い、お互いを感謝する瞬間……そしてフラエッテを介しての触れ合いは、今後も手を取り合って共生していくと言うメッセージなのかもしれない。

 ポケモンは、こんなにも素晴らしい絆を生み出すのだ。


 夜が完全に開け、湿地帯に朝日が差し込む。いつもと変わらぬ湿地帯の夜明けだ。
 ポケモンたちは完全に和解し、一緒になって遊んでいる。

  セレナ 「みんな本当に楽しそう。もう安心だわ。ね、サトシ?」

  サトシ 「……ヌメルゴン。お前は、ここに残れ。お前が暮らす場所は ここだ。この湿地帯だ。そうだろ?」

  セレナ 「暮らす場所って……まさかっ」
  ユリーカ 「お別れなの……?」
  サトシ 「オレだって……オレだって辛いさ。でも、お前は強くなった。ヌメラの時とは違う。あいつらを守り、助け合って、仲良く暮らすことが出来る。お前が一番したかったことだ」

  ヌメルゴン 「……!」


 サトシの言葉は、全て事実だった。
 強くなりたいという強い想いでサトシにゲットされ、一緒に旅して、戦って、進化して……。短い間に、ヌメルゴンは大きく成長したのだ。

  シトロン 「そうですね……それが幸せなのかもしれません。ヌメルゴンにとっても、ここのポケモンたちにとっても……」


     

     

     


  サトシ 「たとえ遠く離れても……どんな時でも、なにがあっても、オレたちは友達だ。ずっと……ずっと……!」



  セレナ 「忘れないわ……ヌメルゴンのことっ……」
  ユリーカ 「ぜったい……ぜぇぇったいにっ……ぜぇぇったいぃぃぃ……!」



  サトシ  「まったく……ベタベタになっちゃったじゃないか……」
  デデンネ 「でねねね……でねねねぇぇぇでねねぇぇでねねぇぇぇでぇねねんでねねねぇぇぇ……」

  ヌメルゴン 「めんごぉぉぉ」
  サトシ  「へへっ……」


 一緒に強くなり、大きく成長したヌメルゴンを、彼のため、そして湿地帯のために残るよう諭したサトシは、本当に大人だ。
 ポケモンのことを第一に考えるサトシの優しさ、ポケモン想いの心は、ずっと変わっていなかった。

 最後は笑顔のお別れだ。
 ヌメルゴンに加え、ウパーやヌオー、それに、フラージェスカイロス、スピアーたちも、旅を再開するサトシに笑顔で手を振っていた。

 今後この湿地帯は、多くのポケモンたちが共生する、良い場所になっていくのだろう。
 ヌメルゴンフラージェスと言う素晴らしいポケモンが皆を守る、美しい場所に。
 

 そんなヌメルゴンたちの幸せを願うサトシの英断に、拍手を送りたい次第だ。