ポケモンXY感想−53話目
第53話 「セレナの本気! 激走メェークルレース!!」
メェークルの名前に“ェ”が入ることで、執筆する側としては非常に面倒なことはさておき、ヒヨクシティに向かう道中、サトシ達は、とある牧場に立ち寄った。その名もメェール牧場。ゲームXYとも同じ位置関係、同じ名前であり、原作を再現した形だ。
そこにはメェークルの他、ドードーや、来年の未年を意識したのかメリープも。そしてここの名物は、メェークルのミルクを使ったアイスクリーム。早速一行は、それを堪能しに牧場へ入って行った。
ユリーカの無差別シルブプレはさておき、早速ソフトクリームを購入したセレナが、良いお姉ちゃんだった。
牧場内では、メェークルに乗っている子供が多数。よくある体験コーナーかと思いきや、セレナはなにか思い当たる節がある様子。
セレナ 「これってもしかして……」
サキ 「そう。サイホーンレーサーになるための訓練の第一歩ね!」
セレナ 「ママ!?」
超久しぶりに、セレナママ、サキが登場。サイホーンレーサーのサキは、ここで開かれているサイホーンレーサー養成講座の講師として招かれたらしい。
……サイホーンレーサーって、カロスじゃそんなにポピュラーなのかな?
再会を喜ぶセレナとサキだが、次の瞬間、セレナの表情が曇った。
サキ 「旅の間も、サイホーンレースの練習してる?」
セレナ 「うっ……うん……」
……してるところ、見たことないんだよなぁ。
サトシ 「サイホーンレーサー養成講座って……ここでもサイホーンに乗れるんですか!?」
サキ 「えぇ。でも今日は初級編。今日はメェークルに乗る練習よ」
サトシ 「メェークルに?」
サキ 「サイホーンって、大きくて力も強いでしょ? 最初はメェークルに乗るところから始めるの。彼らは角を掴むと、乗っている人の気持ちを感じてくれるから、子供でも乗りやすいのよ」
このサキの言葉が、まさか今後の伏線になるとは思わなかった。
サトシ 「……あれ? オレ、いきなりサイホーンで練習しちゃいましたけど……」
セレナ 「あれはサトシが、どうしてもサイホーンレースに出たいって言うから……」
サトシ 「あぁ。セレナのおかげで乗れるようになったしな!」
セレナ 「それは……サトシが頑張ったからよっ……」
おっと、さり気ないサトセレ。やっぱり赤面したセレナは絵になる。
サイホーンに乗れると言うことは、上位互換でメェークルの訓練は必要ない……が、メェークルにも乗ってみたいと言いだすサトシ。そしてユリーカも。
ユリーカ 「ユリーカも乗りたい! だって可愛いんだもん!」
……お前も十分可愛い。
早速メェークルに乗ったユリーカ。
ユリーカ 「私もメェークルと仲良くしたいなぁ。一緒にお散歩できたら良いのに」
するとメェークルの角がほのかに光り、メェークルは元気よく鳴いた。これが先ほどサキが言っていた、“乗っている人の気持ちを感じてくれる”ことだろう。
ユリーカは初挑戦にして、何の問題もなく、メェークルに乗ることができたのだ。
そんなユリーカの姿を見て、セレナは、昔の自分を思い出していた。
サイホーンレーサーになるための特訓で、メェークルに乗ったこと。しかし、怖くて怖くて、どうしようもなかったことを。
なのにユリーカは、怖がること無く、あっという間にメェークルを乗りこなしていた。サキにも筋が良いと褒められ、自分とは正反対……。
暗い顔をしているセレナを、サトシが気に掛ける。大丈夫とは言ったセレナだが、内心、葛藤していたのだろう。ユリーカと自分の差や、母親の反応、そして、自分の将来のこと……。
きちんと自分の考えを伝えたいと言う気持ちは、昼食中にも訪れる。
サキからサイホーンレースの練習をするよう言われた際、何ともオドオドした表情を見せていた。これが普段の家の中だったら、まだ状況は違っていたはずだ。
しかし今は、サトシ達がいる。仲間の前で、母親に、自分の夢を伝えるのが、どれだけ勇気のいることか。しかもセレナは、小さい時からサーホーンレースの練習をしていたし、サキにとっても、娘をレーサーにするのが夢だというのは明らかだ。
そんな状況で、おいそれと自分の夢を言いだせる訳がない。
サトシ 「でも、セレナはポケモンパf……」
セレナ 「はっ……サトシっ!」
サトシ 「fgぉふぉっぅ……」
セレナ 「まだ……旅に出たばかりだし、将来のことは……」
サキの表情が変わる。それを見て、セレナはそれ以上、何も言えなかった。
自分の気持ちを伝えようにも、親に逆らえない……とまでは言わないが、どうしても伝えられないその仕草や表情が、的確に描写されていた。
昼食後、忘れ物を取りに行くと嘘をついてまで、セレナはトライポカロンの練習をしていた。このタイミングで練習か? と思ったが、セレナはセレナなりに考えての行動だったようだ。
セレナ 「どうして上手く行かないの……」
失敗が続くフォッコとヤンチャムの演技を見て、セレナは焦る。
そして、先日観覧したエルのパフォーマンスを思いだす。テールナーを使って、楽しそうに松明を操り、“だいもんじ”を華麗に決めた、2人の姿を。
セレナ 「まだ私には無理なの……? こんなんじゃ、ママにポケモンパフォーマーになりたいなんて言えないよ……」
練習の理由は、サキに本心を伝えるためだった。言葉だけでは説得力が無いと思ったからなのか、実際のパフォーマンスを披露して、本気でパフォーマーを目指すことをアピールしたかったのだろう。
だからこそ、焦りが生まれてしまったのだ。
「ふぉっこぉ」
「ちゃむちゃぁむ!」
セレナ 「フォッコ……ヤンチャム……そうだよね。諦めちゃダメ。サトシだって言ってたもんね! 最後まで諦めるなって! 私だって……さぁ! もう1回最初からよ!」
そんなセレナの心を救ったのは、フォッコとヤンチャム。そして、サトシの言葉だった。
……よくよく考えてみると、サトシがセレナに「最後まで諦めるな」と言ったのは、例のサマーキャンプの時。幼少の頃の記憶を、セレナがとても大切にしていたことが示された瞬間だった。
こんな間接的なサトセレを持ってくるとは……やりますなぁ面出さん。
しかし……その光景を、サキは伺っていた。話しかけることこそ無かったが……。
一方ロケット団は、普通に牧場の乳製品を盗んでいた。そして相変わらず、トラックの運転はムサシである。アマルス回でもムサシ、救急車はニャース。コジロウ免停にでもなったか……?
そんな騒ぎを聞き、サトシはメェークルでロケット団のトラックを追いかける。おおおそオマケで付いて行くシトロンとユリーカはさておき、セレナはサイホーンの元へ駆け寄った。
セレナ 「サイホーンお願い。あなたの力が必要なの。力を貸して……」
「さぁぁい」
セレナ 「ありがとう!」
どうもメェークルよりサイホーンの方が速いらしい。そこの辺の知識は、サイホーンレーサーとして教育されてきたセレナならお手のものか。
目線は真っ直ぐ前、姿勢は前傾、リズムよく、当たって砕けろ!
……セレナはしっかりと思いだしていた。母に教わった、サイホーンの乗り方を。
そして走り出す。そんな娘の姿を見て何を思ったか。少し遅れて、サキもサイホーンに乗って追いかけはじめた。
セレナはサトシ達を追い抜き、トラックに攻撃。停止したトラックから降りてきたロケット団だが……。
ムサシ 「観念しなさいと言われても」
コジロウ 「する訳ないのが世の情け」
ムサシ 「美味しいものを食べるため」
コジロウ 「例えば濃厚チーズとか」
ムサシ 「バターとヨーグルトへの愛を貫く」
コジロウ 「ラブリーチャーミーな敵役」
ムサシ 「ムサシ!」
コジロウ 「コジロウ!」
ムサシ 「銀河をかけるロケット団の2人には」
コジロウ 「クリームチーズ白いごちそぅが待ってるぜ」
……おい。
まさかの3回連続変則口上だと? 脚本家さんの間で流行ってるの?
これ……次回は恐らくロケット団回だろうし、まさかの4連続変則口上来るんじゃないか?
ロケット団はそこそこに倒し(サトシが超笑顔で“トドメだ”とか言ってる当たり、凄い慣れてるんだなと思った)、一連の出来事を見ていたサキは、セレナに言った。
サキ 「セレナ、あなたには やっぱりサイホーンレーサーの才能がある。その才能を伸ばすべきだわ」
セレナ 「ママ……」
……ここでセレナ、少し見にくいが、笑っていたように見える。
それは、初めて母親に、自分の才能を褒められたと言うことなのか。ぶっつけ本番でメェークルに乗れたユリーカを、筋が良いと褒めていたサキ。心の中では、セレナも褒めて欲しかったのだろうか。
サキ 「家に帰って、新しい訓練を始めましょう」
ユリーカ 「えぇっ……セレナ帰っちゃうの!?」
サトシ 「あのっ……セレナは……!」
セレナ 「待って、サトシ」
サトシ 「でもっ……」
セレナ 「ごめんね。ちゃんと自分で言いたいの」
セレナは、決心がついたようだ。サキに才能を認められたからか、家に連れて帰られるとパフォーマーの夢を諦めることになるからか、またはその両方からか。
セレナ 「私……ポケモンパフォーマーになりたいっ! だから……家には帰らない」
サキ 「本気で言ってるの? あなたは無理だと思ったら、すぐに投げ出してしまうじゃない」
セレナ 「なら勝負して。サイホーンレースで負けたら、旅を辞めて家に帰るわ!」
サキ 「セレナ……」
セレナ 「でも、私が勝ったら、私の本気を認めてっ!」
このセレナの提案が、どれだけ無謀なことか。プロにアマが挑んで、勝ち目なんてあるはずがない。……それほどセレナが本気だと言うことだ。
実力差から、レースはメェークルで行うことに。乗る人間が軽いほど有利になると言う、サキからのハンディだ。
……しかしそのハンディは、実は、サキがセレナの本気度を知るためのものだった。
レースは途中までセレナが優勢だったが、メェークルがコケたせいで、一気に不利に。もっとも、メェークルがコケた理由は、もっと早くと強く思うセレナの感情に、耐え切れなくなったからなのかもしれない。
転んで泥だらけになったセレナだが、彼女の脳裏には、小さい頃の練習風景が浮かんでいた。転んで、練習が嫌で、泣きじゃくっていた自分。それがすなわち、サキの言う、「すぐに投げ出してしまう」姿だった。
しかし今のセレナは、諦めない。
セレナ 「(何も考えずに旅に出ちゃったけど、ママの言う通り、サイホーンレーサーになるのが嫌で逃げ出したけど、サトシ達と出会えて、旅を続けて来て、やっと私にも、なりたいものが見つかったんだ! だからっ……もう諦めたくない……!)」
そんな、セレナの強い想いを汲み取ったメェークルは、みるみる追い上げていく。
絶対に諦めないと本気で挑むセレナは、やる気が伝わってくる、とてもいい顔だった。
サキ 「(本気で行きたいのね……)」
サキの想いも、メェークルは汲み取った。
娘の本気を目の当たりにして、ポケモンパフォーマーになることを許そうと、サキは思ったに違いない。そしてその想いが、メェークルを減速させたのだった。
わざと負けるのではなく、あくまで、サキの感情を汲み取ったメェークルが、ある意味サキの気持ちを代弁する形で、勝利をセレナに譲ったように見える。
この展開は、思わず感心してしまった。メェークルが人の感情に敏感に反応すると言う特徴を存分に活かした、熱い展開。初盤のサキの言葉が、まさかここに繋がって来るとは!
勝利したセレナに、サキは優しく言った。
サキ 「セレナ。私の負けね」
セレナ 「ママ……私……わたしっ……」
サキ 「えぇ。分かってるわ」
セレナ 「えっ?」
サキ 「そんなに驚かないで。あなたの気持ちくらい、分かってたわ。母親ですもの!」
セレナ 「ママっ……」
サキ 「隠れてパフォーマーの練習するくらいだもんね」
セレナ 「えっ……見てたの?」
サキ 「泥だらけになっても、諦めないでに最後まで走った。サトシ君たちとの旅で、あなたが成長した証拠よ」
そう。セレナは成長していたのだ。
昼食時、サキは言った。セレナはいつも寝坊ばかりで、料理もあまりせず、飽きっぽくてすぐに投げ出す性格なんだと。サトシ達に迷惑かけてるんじゃないかと。
しかしサトシ達の反応は違った。料理の手伝いをしてくれるし、セレナの作るお菓子は美味しいし、食事が楽しくなるように、花を飾ったり、綺麗なクロスを敷いたりしてくれる。セレナはメンバーにとって、迷惑なんて無縁な、必要な存在なのだと。
旅をすることで、昔のセレナとは変わっていることを、サキは認めたのだった。
メェークルを通じて、サキはセレナがどれだけ本気なのかを知った。ならば、その夢を奪うようなことはしたくないと言うのが、親の気持ちだろう。
遂にセレナは、母親から、ポケモンパフォーマーを目指すことを許されたのだ。
別れ際、サキはセレナに、ヒヨクシティでトライポカロンが行われることを伝えた。早速、サキはきちんと応援してくれているようだった。
娘が自分とは違う道に進むことは、サイホーンレーサーのサキにとって、残念でならないことだと思う。しかし、娘の本気の姿を見て、それを受け入れるサキの心の広さ、娘を想う気持ちは、親としても、人としても、素晴らしいものだ。セレナの優しい性格も、母親譲りと思えば頷ける。
ひとつ大きくなったセレナの今後、どんなパフォーマンスを繰り広げるのか、今からとても楽しみだ。
● 総括
セレナの夢が親に認められた、ストーリー上の超重要回。ポケモンパフォーマーを目指すセレナが、とうとう第一歩を踏み出したと言っても良い。
ポケモンゲット&自分の夢を見つけるのが遅いセレナだったが、旅の目的を親に認められたのもヒロイン史上最遅。しかしそれは、“普通の女の子”を描く上で、これ以上ない表現方法だろう。
人間の気持ちを敏感に感じ取るメェークルでのレースは、思わず唸る展開だった。こういった重要回に、ポケモンの特性を絡ませる脚本には好感が持てる。
サキがセレナの本気を感じ、パフォーマーへの夢を許すまでが、30分アニメにも関わらず自然に纏められていたこともGood! その他、サトシとセレナのさり気ない絡み、キャラたちの性格も微笑ましく描かれた、完成度の高い話だった。
● おまけ
弱々しいセレナと、覚悟を決めたセレナ。これが同じ女の子ですぜ。